今回は目標設定が与える8つの悪影響について解説します。
目標設定の8つのデメリット
一般的に目標設定はタスクパフォーマンスと正の関係があるとわかっています。これは過去の研究(1)でも、人が目標にコミットして目標を達成する必要な能力を持ち、矛盾する目標がない限りは目標の難易度とタスクパフォーマンスが正の関連を示すと発表されています。
しかし、ハーバード大のワーキングペーパー(2)では、目標設定には予測可能な副作用があると示しています。目標設定も正しく使えなければ、むしろ毒になるわけですね。
目標設定のデメリット
- 視野を狭くする
- (複数の目標がある場合)一部の目標が犠牲になる
- 間違った目標が逆にパフォーマンスを落とす
- リスクの高いギャンブルを選択しやすくなる
- 非倫理的な行動をとる
- 学習を阻害する
- 競争文化を作り出す
- モチベーションの低下
それぞれ見ていきます。
1.視野を狭くする
目標は人の視野を狭くします。目標を設定すると、目標に指定されていない要素を無視する傾向があるわけですね。
定番的な例では市場にピントが合っているため、安全性テストを見落としてしまうなどです。これによって、短期的な利益に近視眼的に集中してしまい、組織に壊滅的な長期的影響を見失う可能性があります。
2.(複数の目標がある場合)簡単な目標を達成しようとする
目標が多すぎる場合、人は1つの目標のみに集中する傾向があると示されています。過去の研究では、参加者に「品質の目標」と「量の目標」を与え、両方の達成が難しいよう調整しました。
すると、参加者は量の目標を満たすために品質を犠牲にしました。複数の目標があるときは達成や測定が簡単な目標に注意が向いてしまうわけですね。
3.間違った期限設定が逆にパフォーマンスを落とす
短期的にパフォーマンスを重視する目標は近視眼的で短期的な行動をマネージャに促します。過去の研究(3)では四半期ごとの収益レポートを発行する企業はアナリストの期待に応える傾向がありましたが、研究開発への投資が少なく、長期的な収益成長率が著しく低いと示されました。
また面白い事例では、ニューヨークのタクシー運転手が雨の日に少なくなるというのがあります。本来は雨が降るとタクシーの需要が増えますが、タクシードライバーが設定する1日の目標を早く稼げるので、すぐに帰ってしまうわけです。つまり、目標が期限内に達成されると、さらに取り組むのではなく、残りの時間は休む方が合理的になってしまいます。
4.リスクの高い戦略を選択しやすくなる
研究では、ストレッチ目標を持つ人は曖昧な目標を持つ人よりもリスクのある戦略を採用すると示されています。有名な例では、1976年にコンチネンタルイリノイ銀行が「5年以内に銀行の貸付規模を他のどの銀行にも匹敵する規模にする」と発表しました。
このストレッチ目標を達成するために、銀行は「保守的な企業金融」から「借り手の積極的な追求」に戦略をシフトしました。具体的には非常にリスクの高い融資に多額の投資をしていた中小銀行への融資を、役員が購入できるよう変更を加えています。結果は借り手が融資を返済できていればアメリカ第7位の銀行になっていましたが、実際は巨額の債務不履行となったわけです。
このように目標はリスク選考を歪めるとわかります。
5.非倫理的な行動をとる
目標は非倫理的な行動を促進するとわかっています。この辺りはニュースにもなりますが、以下のような事例です。
非倫理的な行動の例
- 不必要なオプションを顧客に請求する
- 営業目標のためにしつこくセールス
- 収益目標の達成のために財務諸表を捏造する
この場合、特に影響を受けるのが組織文化です。目標設定は非倫理的な行動を直接動機づけるだけでなく、組織文化を微妙に変えることで間接的に非倫理的な行動を動機付けてしまうわけです。つまり、目標は非倫理的な行動を促し、それが当たり前の組織になってしまうことでより加速してしまいます。
6.学習を阻害する
目標は経験からの学習を阻害し、パフォーマンスを低下させる可能性が示されています。というのも、目標に焦点を絞った人はタスクの実行を学ぶのに役立つ代替方法を試す可能性が低下します。
また組織は同僚との学びがあるわけですが、目標が設定され競争が生まれると学習を阻害するケースが出てきます。足の引っ張り合いになると、学習を阻害してしまうわけです。
7.競争文化を作り出す
目標設定に依存している組織ほど、グループをまとめる「協力」という文化が侵食されている可能性があります。目標達成に集中しすぎると、同僚を助けるなど役割外の行動が減少してしまうわけです。最終的には協力よりも競争が促進され、全体的なパフォーマンスを低下させる可能性があります。
8.モチベーションの低下
目標設定は外発的動機づけを増加させて、内発的動機づけを損なう可能性があります。
心理学では動機づけを「外発的動機付け」と「内発的動機付け」に分類しています。外発的動機付けは報酬や罰によるものという考え方。内発的動機付けは興味や関心によるものという考えです。
一般的に外発的動機付けは一時的な効果で継続するにはより大きな刺激が必要となり、受動的になってしまいます。
目標設定する時の10のチェックリスト
ここまで見てきたように、目標設定は必ずしも良いわけではないとわかりました。視野を狭くし、非倫理的な行動やリスクのある戦略を促進してしまいます。
とはいえ、目標設定がパフォーマンスの向上に役立つのは間違いないということで、慎重に検討できるリストが作成されています。
目標設定のチェックリスト
- 目標が具体的すぎないか?
狭い目標は問題の重要な側面を見えなくしてしまう。目標が包括的であり、企業の成功にとって重要な要素がすべて含まれていることを確認する。 - 目標が難しすぎないか?
従業員が目標を達成できるように、スキルとトレーニングを提供する。目標を達成できなかったことに対する厳しい処罰を避ける。 - 誰が目標を設定しているか?
人々は自分たちが設定する目標に、より一層コミットするようになるだろう。同時に、人々は目標を達成しやすく設定したくなるかもしれない。 - 時間軸は適切か?
目標を達成するための短期的な努力が、長期的な成果への投資を損なわないようにする。たとえば、コカ・コーラのように四半期レポートを削除することを考えてみます。 - 目標におけるリスクテイクは明確か?
許容可能なリスクレベルを明確にしてください。 - 目標による倫理観の問題に対処できているか?
目標は焦点が絞られており、従業員が倫理的な問題を認識する可能性が低くなる。目標は従業員の非倫理的な行動を合理化し、組織文化を腐敗させる可能性がある。目標を達成しつつ倫理的行動を確保するためには、複数のセーフガードが必要かもしれない。(例えば、倫理的行動の模範としての指導者、不正行為のコストを利益よりもはるかに大きくする強力な監視) - 公平性を保ちながら、個人の能力や状況に合わせて目標を設定できるか?
共通の基準を用い、個人差を考慮した目標設定に努める。 - 目標が組織文化に影響すると認識しているか?
協力が不可欠な場合は、個人ではなくチームで目標を設定することを検討してください。 - 従業員は本質的に動機付けられているか?
内発的動機づけを評価し、目標が内発的動機づけを抑制する可能性があることを認識する。 - 組織の最終的な目標とどのタイプの目標(パフォーマンスまたは学習)が最も適切かを検討する。
複雑な環境では、学習目標がより効果的。
このように目標は毒になる可能性があるので、副作用を踏まえた上で上手く活用したいですね。
それではぜひ参考に。