ベンチャー起業家の方なんかはストレッチ目標を設定しているイメージがあります。新しい研究によると、目標の難易度は一定ラインを超えるとパフォーマンスが逆に低下すると発表されました。
ストレッチ目標は企業業績にどう影響するのか?
この研究(1)は企業業績における起業家の目標の役割を調査したものです。特に目標の難易度と起業家の自己効力感の関係を調査しています。自己効力感とは、課題がある状況で必要な行動を取れば結果を出せるという期待や自信のことですね。
過去の研究で起業家の自己効力感はベンチャーのパフォーマンスと正の関連があるとわかっています。今回の研究はこの関係をストレッチ目標も含めて、より詳細に調査したわけですね。
対象となったのは167人の起業家です。参加者全員に以下の内容で質問しています。
質問内容
- 企業の業績:競合他社に比べて良い業績かどうか
- 自制心:誘惑に抵抗するのが得意かどうか
- 目標の難易度:会社に設定した目標は難しいかどうか
- 自己効力感:顧客のニーズを満たせる自信がどれだけあるか、日々の問題に対処する能力はにどれだけ自信があるか?
- 経済的動機付け:自分にとってお金を稼ぐことはどれだけ重要か
企業の業績に関しては最初の調査から1年後にも再度連絡をして調査しました。
結果は以下のような感じ。
結果
- 目標の難易度と自己効力感は中程度で有意な相関が見られた
- 起業家の自己効力感と目標の難易度の関係は自制心による有意な負の緩和を示した
- 目標の難易度と確固たるパフォーマンスは有意に正の関係を示した
- 目標の難易度は一定ラインを超えるとパフォーマンスが低下した(逆U字型の曲線)
- 目標の難しさが企業業績と自己効力感の関係を仲介した
- 自己効力感と目標による企業業績の関係は自制心に影響され、自制心が強いと有益な結果になる
結果はストレッチ目標がパフォーマンスに有益でしたが、達成できないほど難しい目標を設定すると、起業家の会社の業績に悪影響を与える可能性があります。もっといえば、達成できないレベルで設定された目標はベンチャー企業に必要な急速な成長を促すことはできないわけです。
特に行き過ぎた目標を設定しやすいのは自己効力感が高く、自制心が低い起業家でした。
自己効力感はポジティブな効果をもたらすことが多いですが、目標設定においては悪影響になる可能性があります。とはいえ、セルフコントロール能力が高い人はこの悪影響を緩和して、適切なレベルの目標を選択するのに役立つとわかりました。
今回の結果について著者は以下のように述べています。
私たちの調査結果は起業家の自己効力感が企業のパフォーマンスに影響を与えるメカニズムの理解を広げます。より具体的には、起業家の自己効力感は自制心が高い場合は目標の難易度を通じて企業のパフォーマンスにプラスの影響を与え、セルフコントロールが低い場合は目標の難易度を通じて企業のパフォーマンスにマイナスの影響を与えることを示しています。
起業家が目標でパフォーマンスを高めようと思ったら、自己効力感とセルフコントロール能力が重要になってくるわけですね。結果でも出ているように、明らかに達成できない目標は企業の業績を低下させる可能性があるので意識したいところ。
ただしGoogleの目標設定について書かれた「Measure What Matters」では、達成できないことを前提に目標設定が行われています。
OKRは漸進的進歩ではなく、飛躍のための目標だ。だからすべてを達成することは期待しない(すべて達成すれば、それは野心が足りない表れだ)
今回は達成できないレベルの目標を設定すると企業業績が低下しましたが、「最低ラインの目標」と「野心的な目標」の二重で設定するやり方もあります。この辺りは科学的にどこまで効果があるのは不明ですが、目標の恩恵を受けつつも副作用も減らしたい人は試してみる価値ありです。
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それではぜひ参考に。