新しいワーキングメモリトレーニングのメタ分析では、ワーキングメモリの影響ですら短期的なものと発表されました。
ワーキングメモリトレーニングは効果があるよってメタ分析とその反論
ワーキングメモリトレーニングが話題になったのは良い結果が出たメタ分析が一気に発表されたからです。(1,2)例えば(1)のメタ分析では、数週間のトレーニングで、流動性知能を改善するとわかりました。効果サイズは小さめでしたが、有意な正の効果だったのでかなりの衝撃です。
メモ
流動性知能とは、計算能力や思考力、集中力などの能力です。
当然ながらワーキングメモリトレーニングで、幅広く脳を鍛えられるなら最高ですよね。しかし、メタ分析が発表された2年後に反論が発表(3)されました。
この論文では研究の問題点を挙げながら、効果があるって証拠はなしと結論付けています。挙げられている問題点をざっくり解説すると、以下の3つです。
メタ分析(1,2)の問題点
- 透明性の低さ:メタ分析した論文が一部リストされていない
- 平均効果サイズの計算方法:ベースラインの違いが考慮されていない
- 治療群と未治療群の区別が不明確
上記のような感じで、ガッツリ反論されています。しかも、この論文では3つの欠点を修正した上で、メタ分析を行いました。すると、ワーキングメモリトレーニングがIQなどの認知機能を向上させる証拠はなかったわけです。
著者は以下のように述べています。
ワーキングメモリトレーニングの本当の効果はかなり過大評価されているように思われる。
こんな感じでワーキングメモリトレーニングの効果はかなり限定的だとわかったわけです。
包括的に行われたメタ分析が発表された
反論の論文が発表された1年後に、さらに包括的なメタ分析が発表(4)されました。この研究では主に2つの問題に焦点を当てています。
問題の焦点
- ワーキングメモリのトレーニングで、トレーニングされたスキルが向上するのか?
- するのであれば、他の知能にも転移をするのか?
どうやら著者の方は「ワーキングメモリで知能が向上する!」って意見を検証したかったみたいです。
メモ
ここで言っている転移とは、学習の転移のことです。昔やっていたことが別の学習をするときに役に立つというイメージですね。
チェスを例にすると、「1.チェスを練習すればチェスが強くなる」「2.チェスを練習すれば、将棋やオセロが強くなる」「3.論理的思考が向上する」「4.論理的思考とは関係のない知能が向上する」という順に転移が起こるわけです。つまり、ワーキングメモリのトレーニングでも知能全般が向上するなら、似たような順番で転移が起こります。
この論文では、転移を3つに分類しています。
転移の分類
- 近い:ワーキングメモリトレーニングでワーキングメモリトレーニングが上手くなる
- 中程度:ワーキングメモリトレーニングでワーキングメモリが向上する
- 遠い:ワーキングメモリトレーニングで関係のない知能が向上する
で、結果は以下のような感じでした。
結果
- WMが関係のない知能を向上することはなかった
- ワーキングメモリには中程度で有意な効果があった
- しかしトレーニングから5ヶ月後には有意でなくなっていた
これらの結果からワーキングメモリトレーニングが知能全般を向上させることはないとわかりました。しかもワーキングメモリにおいても効果は短期的なものだったので、びっくり。
著者は以下のようにおっしゃっています。
知能を持続的に改善するなら、反復的な記憶ゲームよりも「伝統的な」アプローチ(より多様で刺激的な教育的介入)を追求する方が良いと考える。
ワーキングメモリの影響でさえも、短期的なものなのであればやる意味はほとんどなさそうですね。
ワーキングメモリトレーニングの比較も
先ほどのメタ分析ではワーキングメモリトレーニング同士の比較もされています。
言語 | 視覚空間 | |
---|---|---|
コグメド | 0.91 | 0.34 |
Nバック課題 | 0.17 | 0.24 |
ワーキングメモリスパン課題 | 0.19 | 0.18 |
その他 | 0.16 | 0.37 |
トレーニングの中で最も良かったのがコグメドでした。元々はスウェーデンで開発されたトレーニング法ですが、日本にもコグメドジャパンがあります。
内容は5週間ガッツリトレーニングしますが、料金も高めなのが難点です。ただ他のトレーニング方法では、ワーキングメモリに小さな影響しか見られません。
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nバック課題をやってもワーキングメモリはほぼ向上しないというメタ分析
これなら、わざわざワーキングメモリのトレーニングをする必要もないでしょう。
それではぜひ参考に。