このページでは、フードバンクについてまとめています。日本の飢餓について知りたい方は下記の記事へどうぞ。
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【2020年版】世界の飢餓と日本の飢餓を総まとめ
フードバンクとは
フードバンクとは、寄付された食品を生活困窮者に無償で届ける活動のことです。日本では年間612万トンの食品ロスが出ています。(1)フードバンクは食品ロスを削減しながら、生活困窮者の支援も同時に行える一石二鳥の仕組みです。
フードバンクを利用できる対象者は?
フードバンクによって方針が違います。一般的には生活困窮世帯が利用しています。
主な利用者
- 片親世帯(シングルマザーなど)
- 高齢者世帯
- 障害のある方
- 在日外国人
ただしここで挙げた利用者はあくまで一般的な例なので、当てはまらなくても利用可能です。利用方法もフードバンクによって違いますが、事前予約が必要な場合や身分証明書が必要なことがあります。
どんな食品を扱っているの?
流通経済研究所の調査(2)によれば、常温加工食品がほぼすべてのフードバンクで取り扱われていました。主に取り扱われている食品は以下の通りです。
取り扱い食品
- 常温加工食品
- 農産物・米
- パン・弁当・惣菜
- 冷凍食品
- 水産・畜産食品
フードバンクの規模にもよりますが、常温で期限が長い食品を扱っているフードバンクが多いです。生鮮食品に関しては管理が難しいため、取り扱っていないフードバンクがほとんどです。
日本のフードバンクの現状
日本のフードバンクはどのくらいあるの?
日本のフードバンクは2020年現在で142団体あります。
回答のあったフードバンクのみではありますが、年々増加し続けていることがわかります。
全国のフードバンク
エリア別のフードバンク数は以下の通りです。
都道府県別では多い順で東京9団体、北海道9団体、神奈川8団体となっています。
日本のフードバンクの食品取扱量
日本の食品取扱量は2018年時点で2850トンでした。(3)こちらの取扱量は83団体の回答から計算されたものです。概算では1団体あたり年間平均30トン代でほぼ横ばいでした。
ただし農林水産省(4)の資料によれば、2015年時点で3808.4トンとなっています。
こちらは45団体からの結果です。2020年時点でもフードバンクの数は増え続けていますが、正確な食品取扱量はわかっていません。
海外フードバンクとの比較
アメリカ
世界最初のフードバンクはアメリカのアリゾナ州発祥です。最初のフードバンクは「セント・メアリーズ・フードバンク」の設立者であるジョン・ヴァンヘンゲルが1967年から始めました。その後で全国ネットワーク組織「セカンド・ハーベスト」が組織されて、2008年にはフィーディングアメリカとなりました。フィーディングアメリカはアメリカでも最大規模のフードバンク団体で、200以上のフードバンクが加盟しています。
活動拠点 | 本部(イリノイ州シカゴ市)、対象はアメリカ全域 |
設立年 | 2008年 |
年間収入 | 28億7628万ドル |
事業内容 | 寄付金を加盟団体に助成 寄付食品を加盟団体に配分 加盟団体への検査やアドバイス |
食品提供規模 | 42億食、163万トン、4600万人 |
年間収入が約3000億円と飛び抜けた数値です。内訳は公的支援だけで28億ドルを占めています。ちなみにアメリカ国内でも収益が2番目に大きい慈善団体です。日本最大のフードバンクがセカンドハーベストで、約12億円という規模なのでその大きさがよくわかります。
ここで注目したいのはアメリカの公的支援です。収益の大部分が「寄付された商品やサービス」となっていますが、おそらく寄付された食品の評価益が2800億円あるという意味でしょう。アメリカではUSDA(農務省)が余剰食品を買い取って、フードバンクに寄付をしています。
この他にもアメリカ政府がフードバンクに対して行っている公的支援はさまざまなものがあります。
アメリカの公的支援
- USDAによる余剰食品の提供
- 善きサマリア人の法:寄付した食料に対する責任を免除する法律
- 助成金制度
- 寄付金の税控除
アメリカの場合はフードバンクに関する法整備も非常に進んでいます。特に善きサマリア人の法はフードバンクの法的リスクを軽くしています。アメリカの事例を見ると、日本はフードバンクだけではなく、行政との連携や法律の対応も遅れていることがよくわかります。
フランス
フランスはヨーロッパ諸国の中でも最初にフードバンクを始めた国です。それがバンク・アリマンテールというフードバンクで、1984年からスタートしました。バンクアリマンテールは各県に1団体の79支部を持ち、23の物流センターで構成されています。
活動拠点 | フランス全域 |
設立年 | 1984年 |
年間収入 | 51億4586万円 |
特徴 | 食品は寄付に限り購入はなし 個人ではなく団体に対して食品を配給 食料の提供以外の事業は行っていない 寄付は公共機関や企業から集める |
食品提供規模 | 2億3000万食、11万5000トン、200万人 |
フランスでは国民の約14%が「貧困層」で、その中の600万人は深刻な貧困状態と考えられています。その対策として注目されているのが食料廃棄禁止法です。この法律は床面積400㎡以上の大型スーパーを対象として売れ残り食品の廃棄を禁止し、支援団体への寄付を義務付けました。これにより、2350箇所の大型スーパーから食品を回収しています。
この他にも公的支援が充実しています。
公的支援
- 食料廃棄禁止法
- FEAD(欧州貧困援助基金)からの食料提供
- 政府・自治体からの助成金
- 税控除
- コレクトナショナル:大規模な寄付イベント
FEADからの食料提供では余剰食品を買い上げているのではなく、フードバンクから必要な食料を聞いた上で政府が購入し引き渡しています。またコレクトナショナルは毎年11月に全国のスーパーや量販店で、13万人のボランティアを動員して行われる大規模な寄付イベントです。フードバンク側が寄付してほしい食品のリストを渡し、レジ通過後に寄付してもらうという仕組みになっています。
2015年時点ですが、バンク・アリマンテールの食品収集先は以下の通りです。
特徴的なのはフードバンク側の要望を通した収集で35%もある点です。一般的にフードバンクは企業の売れ残りを提供していることが多いわけですが、フランスではフードバンクが意図的に集めた食品もそこそこあります。
韓国
韓国は政府の直接的な支援によって、フードバンクを短期間で急速に成長させた国です。議論自体は1995年頃から行われ、1998年には全国4ヶ所で韓国政府によるフードバンクが始まっています。政府主導で行われているので、法制度も整備されています。
公的支援
- 食品の寄付は全額損金算入/所得控除
- フードバンクによる法的リスク免除
- 食品寄付情報システムの構築・運営
- 全国的な食品物流センター
- フードバンクの運営に対する補助金
- フードバンクの業務・評価マニュアル
日本やアメリカを始め多くのフードバンクは地域密着型ですが、韓国では中央集権的なフードバンクになっているのが特徴です。
全国フードバンクは1ヶ所、広域フードバンクが17ヶ所、基礎フードバンクが312ヶ所、フードマーケットが128ヶ所あります。ここではフードマーケットがやや特殊ですが、無料のスーパーマーケットのような仕組みです。寄付された食品は陳列して、利用者が選択できます。フードバンクの数に関しても政府主導で進められているだけあって、急速に増加しました。
全国 | 広域 | 基礎 | マーケット | |
---|---|---|---|---|
2000年 | 1 | 17 | 181 | - |
2005年 | 1 | 16 | 240 | - |
2010年 | 1 | 16 | 283 | 115 |
2015年 | 1 | 17 | 291 | 127 |
2020年 | 1 | 17 | 312 | 128 |
韓国では寄付指数ランキングにおいて60位と寄付文化が弱い国です。しかし、政府が寄付を促進する施策を実施したことで、食品援助総額は増加し続けました。例えば、韓国では食品寄付の100%税額控除を受けられますし、非食品や現金寄付でも法人税の控除があります。日本は寄付指数ランキングで128位(7)と韓国以上に寄付文化がない国なので、ひとつの事例として参考になりますね。
日本のフードバンクの課題
日本のフードバンクは海外と比較しても規模が小さく、その背景には多くの問題があります。まず運営上の課題として以下のような内容が挙げられています。(5,6)
運営上の課題
- 予算不足
- 人員不足
- モノ不足(倉庫や冷蔵庫、運搬車)
- 食品不足(量・質ともに)
- 認知度不足
- ノウハウ不足
- 連携不足(行政・他団体)
フードバンクの運営には多くの課題がありますが、その多くはお金で解決できる問題です。つまり、日本のフードバンクは資金不足によって、多くの問題が発生しています。この資金不足の主な要因は「日本の寄付行動の少なさ」と「公的支援の無さ」が挙げられます。
日本の寄付指数は世界128位と先進国の中でもダントツで低い順位です。この結果から仮説として「フードバンクに対する人口ひとりあたりの寄付金額が少ない」というのが考えられます。ただフードバンクの知名度が国によって異なるので、単純な比較はできません。
また海外事例で挙げた3国は政府による公的支援が多くありましたが、現状日本ではほとんどありません。この公的支援の無さは直接的にフードバンクの問題につながっています。
セカンドハーベストの運営協力金問題
日本のフードバンクは資金不足が深刻な問題です。日本で最も大きなセカンドハーベストでも資金難となっています。というのも、セカンドハーベストは「負担金」や「運営協力金」として地方のフードバンクに数十万円という金額を請求した過去があります。(7,8)
(引用元:セカンドハーベストへの疑問)
この負担金の内訳には食品1箱1800円を請求しています。本来は寄付された食品を転売するのは禁止されていることが多いですが、「協力負担金」というパッケージで地方のフードバンクに請求していたようです。ただセカンドハーベストの代表チャールズ氏によれば、あくまで相談のつもりだったとか。
「今後は受け取る側にも支えて頂きたいというお願いや相談の意図だった」というが、現実には「数十万円の多額な資金を払わなければ食品を提供しない」といった誤解が広がり、それが拡散してしまったという。「払わなければ提供しない、ということはありません」と話す。
八王子フードバンクの記事を読む限り、地域フードバンクの中にはセカンドハーベストに不信感を持っているところもありそうです。記事中でも「タコが自分の足を食う」と表現されているように、日本のフードバンク全体を考えると良いようには思えません。しかし、セカンドハーベストが独善的な団体というよりも日本の環境がそうせざるを得なくさせている感もあります。
フードバンクが発展している国を見ると、「寄付文化が根強い」か「手厚い公的支援がある」かその両方です。しかし、日本は寄付文化が圧倒的に弱く、行政との連携もできていないため、このような問題が起きる原因になっていると考えられます。海外の事例を挙げましたが、安定的な資金確保のために全く別の形が日本のフードバンクには求められているのかもしれません。
それではぜひ参考に。