「AIが人の仕事を乗っ取る」という噂が話題になっていたので、実際の所どうなのかを調査しました。AIと雇用がここまで話題になったのは、オックスフォード大学のオズボーン准教授とフレイ博士による論文(1)の影響です。
この論文では20年以内に労働人口の47%が代替可能と発表されました。そこからAIと雇用について色々な研究がおこなわれています。
今回は色々な調査を見て、AIが雇用にどこまで影響するのかを調査していきます。
オックスフォード大学や野村総研が予想する無くなる仕事一覧
まずは先行研究ということで、オックスフォード大学や野村総研(2)が予想している無くなる仕事をまとめていきます。
オズボーン教授の予想
- 銀行の融資担当
- スポーツの審判
- 不動産ブローカー
- レストランの案内係
- 保険の審査担当者
- ブリーダー
- オペレーター
- レジ係
- カジノのディーラー
- ネイリスト
- クレジットカードの承認・調査員
- 集金人
- ホテルの受付係
- 図書館員の補助員
- データ入力作業員
- 彫刻師
- 苦情の処理・調査担当者
- 簿記や会計の事務員
- 映写技師
- メガネやコンタクトの技術者
- 塗装工・壁紙貼り職人
- 訪問販売員・露店商人
野村総研の予想(代替可能性が高い)
- 電車運転士
- 経理事務員
- 検針員
- 一般事務員
- 包装作業員
- 路線バス運転者
- 積卸作業員
- こん包工
- レジ係
- 製本作業員
- 給食調理人
- 教育・研修事務員
- スーパー店員
- バイク便配達員
- CADオペレーター
- 警備員
- 駐車場管理人
- 列車清掃員
- 行政事務員
- 製パン工
- 製粉工
- 発電員
- 日用品修理ショップ店員
オックスフォード大学の研究は、10~20年でなくなる可能性が高い職業です。一方の野村総研の研究は、数十年の間で約49%がAIによる自動化の影響を受けると結論を出しています。ただし、「仕事の需要が減少する意味ではない」とも書かれていました。
一方で、一部の専門家は10-20年で実際に雇用が減るのは10-20%程度と予想しています。「雇用の減少は控えめ」派の意見も中々面白かったので、紹介します。
主夫・主婦はいつなくなる?
今回は誰でもイメージしやすい主夫・主婦業を例にします。もしAIの普及で職種がなくなるのであれば、家事がなくなっても不思議ではありません。
主な家事リスト
- トイレ掃除
- 風呂掃除
- 玄関掃除
- 床の掃除
- ベランダの掃除
- シンク・排水口・三角コーナーの掃除
- コンロの掃除
- ゴミ収集の準備・ゴミ捨て
- 洗濯・干す
- アイロン
- 食器洗い
- ご飯の準備
- 子供の送り迎え
ここではどのくらい自動化できるかを検討します。今後10~15年で発売予定の家電も込みです。
自動化できる家電を購入
- 食洗機
- ロボット掃除機
- 洗濯+乾燥+自動折り畳み機
- アーム式調理ロボット(掃除込)
- 自動運転車(送り迎え)
- トイレ掃除専用ロボット
食洗機やロボット掃除機はすでにありますが、他にも料理や服を畳むのも自動になっていく予定です。パナソニックが発表した自動洗濯機やロンドンで発表されたアーム式の調理ロボットが、市販化まではいかないまでもプロトタイプとして存在しています。
このように技術の進歩で凄まじく便利な世の中になっていきます。しかし、これで主夫主婦はなくなるでしょうか?今回の例でもわかるように、完全な代替にはなりません。ここで注目したいのは「技術的には可能だけど、コストに見合わない」という部分です。
例えば机を掃除したり、本棚のちょっとしたほこりを取ったりするのは自動ロボットではなく人でしょう。これと同様なことが色々な職業でも起こるわけですね。
つまり、今までメインでおこなっていた仕事は徐々に自動化が進みますが、他の細かい部分は残るので職業自体は残り続けます。今のAIは特化型なので、人の汎用性が活かされる形ですね。
これは人を褒めているのではなく、AIの普及によってメインの仕事が減少し、誰にでもできるような仕事が残るという意味です。簡単なのは良いですが、辛くも楽しくもない仕事をどう捉えるかは人によりますね。
AIによる雇用代替について考えるときのポイント
今回は誰にでもある家事を例にしましたが、AIと雇用代替について考えるときはポイントが3つあります。
AIと雇用代替のポイント
- 職種ではなくタスク単位で見る
- 費用対効果を見る
- AIは特化、メトロニクスもまだまだ
それぞれ解説していきます。
1.職種で見るのではなくタスク単位で見ないと正確性に欠ける
1つの職業でおこなっている作業は単一的なものではなく、種類の違う作業を複数こなしています。コンビニの店員さんを例としても、レジ打ちだけではなく接客や品出し、宅配便の手配、調理などが挙げられます。AIによって職種がなくなる未来を描くのであれば、これらのような「すべての」タスクを代替しなければなりません。
オックスフォード大学の有名な研究では職種単位で技術的な代替可能性を数値にしたわけですが、研究者は現場のタスクを主観的に算出しています。つまり、自動レジが導入されたからといって、コンビニ店員がなくならないように完全な雇用代替を考えるにはその職種のタスクについて知る必要があるのです。
ちなみにタスク単位で雇用代替についての研究があります。2017年にマッキンゼーが発表した「未来の労働を探求する:自動化、雇用そして生産性」というレポートです。この調査では、完全に代替される職業は全体の5%未満と言われています。
オックスフォード大学の研究とは雲泥の差です。とはいえ、全業種の6割は30%近い部分的な代替がおこなわれるという結果が出ています。
2.技術可能性よりも費用対効果が重要
企業がAIやロボットを導入するかどうかは、費用対効果次第です。技術的に効率化が図れるからといって、人の方が費用対効果が良いのであれば代替はおこなわれません。
また「投資した分の効果が得られるのか?」という疑問のあるタスクもあるでしょう。大企業の事務員比率もIT化によって3%以下になっているので、それ以降は費用対効果も落ちてしまいます。
職種によっては、AIよりもIT化を進めたほうが堅実に効率化を図れるのが現状です。他にも日本型の雇用でいえば 「解雇権濫用の法理」の影響で雇い続けなければならず、人を雇い続ける方が合理的という判断もあるでしょう。すでに雇っていればコストは変わらないので、技術的に可能でもすぐに代替されるのは一部の業種のみです。
3.AIは汎用でないし、メカトロニクスも追いついていない
第3次AIブームが来ましたが、まだ特化型のAIが中心です。主要なタスクがAIによって代替されたとしても、細かい作業は人がこなす必要があります。そもそもAIは汎用ではありませんし、手や足もAIほど成長できていません。
特にメカトロニクスにおいては費用が多くかかるため、今の技術でたまにしか出ない業務を機械化するのは現実的ではありません。無人レストランもありますが、実際には接客する店員がいて、それをマネジメントする店員さんもいるのが多数です。
ファミリーマートとLINE Clovaのファミマミライという構想では、接客業務が中心のコンビニ店員という働き方に変わっていました。そうなると、完全に代替されるのはもう少し先になりそうです。
そもそも日本の生産年齢人口は減少し続けている問題
「日本の絶望的な未来予測総まとめ!日本のやばすぎる将来とは!?」でも説明しましたが、日本は大きく人口を減らし過去に例を見ない超高齢者大国になっていきます。そうなると、生産年齢人口も減っていくのは当たり前ですよね。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」によると、今後の生産年齢人口は以下のような感じ。
このように5年単位で数百万人も減少しています。つまり、今後は仕事がなくなるよりも労働力不足に悩まされるというわけです。こんな現状なので、女性の労働者数や働く高齢者、外国人技能実習生などで人手不足を解消しています。
とはいえ、この人口減少は簡単に止まるものではないので、今後労働力不足の方が深刻になるのは明らかです。AIによる仕事の代替は、日本にとって労働力の減少を補完してくれるので、不幸中の幸いといえます。逆に人口増加が起きている国で、「AIが普及して仕事が減少」する方がかなりキツイですね。
まとめ
ここまでAIと雇用について解説してきました。実際には10年20年で働けなくなるという未来にはなりませんが、人が働かなくても良い未来はそう遠くありません。
今後は今まで主要だった仕事が減少し代替されていきますが、仕事が完全に無くなるのはもう少し先になるでしょう。日本は人口減少が問題でしたが、AIと雇用について考える上では不幸中の幸いでした。
AIによる代替が行われるからクリエイティブな仕事へ移行した方が良いという意見もありますが、特別何か目指すものがないのなら何もしなくても良いというのが正解かもしれません。
AIと仕事について気になっていた方は参考にしてみてください。