事業戦略の”あるべき姿”とはなんだろう

戦略

 

ビジネスの世界ではよく「戦略」という言葉が使われます。かなりカッコいい言葉ですが、その実体を正確に捉えている人はほとんどいないのではないでしょうか。

このページでは事業戦略のあるべき姿について解説していきますが、いわゆる事業戦略の策定を説明するわけではありません。よくありがちな説明では市場調査やSWOT分析を行って、差別化できる要素を検討するという流れが行われますが、「その戦略策定は”戦略”なのか?」というのが主題です。

 

戦略

 

この記事を読み終わっている頃には、ビジョンと戦術の間にある戦略という概念が少し理解できるはずです。

 

そもそも戦略とは何か?

「戦略」という言葉を聞いて思い浮かぶイメージは人それぞれです。戦争で使われてきた孫子の兵法やクラウゼヴィッツをイメージする人もいれば、ポーターの基本戦略をイメージする人もいるでしょう。

ここで言えるのは、戦略の定義が明確に認識されていないということです。個人的な印象で言えば、「戦略」というよりも「成功法則」のような意味で使われることが多いです。例えば、マーケティング戦略やブランド戦略はもちろん、個人の場合でも「〇〇戦略」と名付けるだけで、成功するような感じがします。

しかし、実際には「〇〇戦略」という名の「方針」だったりするので、とても曖昧な言葉ということを理解していただければと思います。肝心な戦略の定義ですが、専門的にも色々な定義が存在しています。

そんな中でも、事業に使われる戦略の定義としてピッタリ合うのがジェイ・B・バーニー教授の定義です。

 

戦略とは、企業が考えた競争に成功するための理論。(企業戦略論<上>より)

 

この辺りは議論があって当然だとは思いますが、個人的にはシンプルで一番的を射ているので説明するときに使っています。ここでは単なる方針ではなく、”成功”するための理論とお考えてください。

 

企業の成功とはなんだろう

戦略は企業が競争に成功するための理論だとして、企業の成功とは何でしょうか?ここでは以下のように定義します。

 

企業の成功とは、「儲ける」こと。

 

戦争であれば敵国に勝利すると成功なわけですが、企業同士の場合は競合他社が潰れても自社の成功とはなりません。また「1番になること」も成功の定義ではありません。よく聞く定義ではありますが、間違っている点が3つあります。

 

1番になることが間違いな理由

  1. ビジネスの世界は成功者が1人ではない
  2. 「1番」=「儲けられる」ではない
  3. 規模の経済は無限に続かない

 

ビジネスの世界では、業界内で成功する企業が1社ではありません。ここが面白いポイントで同じ業界でも複数の企業が共存できるのがビジネスです。また1番になったからと言って、最も儲けられるという証拠はどこにもありません。むしろ過去の事例を見ると、世界最大だったゼネラルモーターズは負債総額1728億ドルという大きな単位で破産しています。つまり、市場シェアを重視して1番になっても、必ず成功するわけではないということですね。

またこういう話をすると必ず出てくる反論が「大きければ規模の経済が働いて他社よりもコストが低くなる」という意見なのですが、規模の経済は無限に続くわけではありません。

 

規模の経済
規模の経済とは、生産規模が大きくなるほど、単位あたりの生産コストが低下するという現象です。よくスケールメリットと呼ばれるやつですね。固定費が大きいと1つあたりの固定費が小さくなるので、コストが低くなります。

 

しかし、この規模の経済は生産量が業界全体の一定ラインに達すると、単位あたりの生産コストが低下しなくなります。そもそも消費が見込めない場合や企業内の調整コストが発生してくる規模の不経済という現象ですね。上記のような理由で業界1位を達成しても、企業の成功とはいえないわけです。

企業の成功を測る単位として正しいのは「利益」です。

 

メモ

ここも議論が起きるところで、Amazonのように長年利益を出さずにフリーキャッシュフローの最適化を重視して成功した企業もあるので一概にいえないのがツライところ。例のように利益を出さずとも、将来の企業価値重視で投資をし続けて成功する企業が増えています。いわゆるキャッシュフローに重点を置いた経営です。しかし、説明としては「利益」から考えるのがわかりやすいので割愛。ここでは「利益」と「キャッシュフロー」の2つの指標があるとお考えてください。

 

企業の成功を「利益」と定義すると、戦略は「他社よりも利益を確実に出す理論」である必要があります。言い換えれば、事業戦略は利益に結びついていなければ戦略ではないのです。

利益は売上からコストを引いた額を指すので、戦略は売上を高めるかコストを下げるよう最適化された形になります。ここで紹介したいのは、ブルー・オーシャン戦略でおなじみのWチャン・キム教授が発表した「バリューイノベーション」という概念です。

 

バリューイノベーション
バリューイノベーションとは、コストを抑えながら買い手にとっての価値を向上させる状態のことです。いわゆるポーターのコストリーダーシップ戦略と差別化戦略を同時に起こします。

 

初めて聞いた人からすると、「コストを下げながら価値を向上させることは可能なの?」と疑問が出るのは当然です。結論から言って”誰にでも”可能なのですが、わかりやすく説明するために例を見ながら解説していきます。

 

戦略がない企業2社の競争

戦略がない企業同士で競争すると、どういう現象が起きるのかハンバーガー店を例にして解説します。ある駅前に「ハンバーガーA」というハンバーガー店があるとします。

 

ハンバーガーA
ハンバーガーAは店内で調理した本格的なハンバーガーを提供しています。価格は平均600円で、ガッツリとしたハンバーガーが食べられるのが特徴です。提供時間は15分程度で、ナイフとフォークが用意されています。

 

 ハンバーガーAはとてもうまくいき業績を伸ばしていきました。

 

ハンバーガー

 

そんな中ハンバーガーAを食べたビジネスマンも、ハンバーガーショップを近くに開くことを決断します。

 

ハンバーガーB
ハンバーガーBはハンバーガーAを徹底的に研究した上で、より安く提供することにしました。模倣の大切を理解した上で、より売れるよう考えたわけですね。価格以外に違いはありません。

 

ハンバーガーのクオリティや立地に大きな違いがないため、100円安いハンバーガーBの方にお客さんが流れていきました。突然売上が減ったハンバーガーAは焦り、お客さんを取り戻すためにハンバーガーBよりも安い400円でハンバーガーを提供する決断をします。そして、この2社は価格競争という泥沼にハマったわけです。

 


 

これは典型的な価格競争の例ですが、「ハンバーガーBが参入してきた時にハンバーガーAが取るべき最善の戦略は何だったのか?」というのが本題です。過去に起きた価格競争では、牛丼チェーン同士の価格競争が記憶に新しいのではないでしょうか。

牛丼業界の事例はとても興味深いのですが、ここで注目したいのは「価格競争の対策としてどういった意見が挙げられているのか?」という点です。いわゆるネット上にある一般的な意見を集めてみました。

 

品質を向上させる
ブランド力を高める
商品の独自性を高める
付加価値を付けた単価の高い商品を販売する
多様な商品を打ち出す

 

商品を他社と差別化することであったり、ブランド力をつけたりといった意見がほとんどでした。今回の例でいうと、「ハンバーガーの品質改善や付加価値、ブランド力を付けるべきだった」という意見になります。上記のような意見をおっしゃる人は「差別化戦略」と言いがちなのですが、実は戦略になっていません。

最初に戦略の定義として「企業が考えた競争に成功するための理論」と説明しました。つまり、企業同士でよっぽどの差がない限り、必ず利益を出せるのが戦略です。

そんな中でハンバーガー業界に強烈な戦略を用いたのがマクドナルド兄弟です。ここでは、最初期のマクドナルドを例として説明します。

 

マクドナルド
最初期のマクドナルドは徹底したコストカットと高い品質を持つハンバーガーショップとして始まりました。今のようなイートインもないですし、メニュー数も非常に少ないのが特徴です。最初期の価格はやや高めですが、ここまでの人気っぷりを見ると高い価値を提供できていたとわかります。

 

比較として、当時の一般的なハンバーガーショップを紹介します。当時のハンバーガーショップは注文してから提供時間までが長く、スタッフがお客さんの元まで運び、皿やコップ、ナイフ、フォークで食べるのが一般的でした。今でこそハンバーガーと言えばマクドナルドですが、元々のスタイルは本格的なハンバーガー屋の方が近いです。

そんなハンバーガー業界の価値観を壊して、強固な戦略を築いたわけですね。先ほど例で挙げた意見と比較すれば、その異質性がわかります。

 

バリューイノベーション

  1. ホットドック?いらん。メニューは少なくていい
  2. 席?外で食える
  3. 皿・コップ?いらん
  4. ナイフ・フォーク?手でいけ
  5. 厨房は効率的に!従業員は徹底指導!決まった動作で効率アップ!

 

マクドナルドは他社と異なる活動を組み合わせることで、独自の価値を生み出したわけです。先ほどの戦略とマーケティング・ブランディングをごっちゃにした意見とは大きく異なります。

 

戦略の本質は”活動”にある

マクドナルドの例を見てもわかるように、戦略の本質は「活動」にあります。言い換えれば、他社とは全く異なる存在になることが事業戦略です。

よく戦略とは「何をやらないか決めること」と言う人がいますが、これは戦略の本質的な部分を言っています。マクドナルドの例で言えば、低コストで効率化している面はあるものの、店内で食べたい人やサービスを重視している人を切り捨てているわけです。

ここで価格競争の対策として挙げられた意見を振り返ると、品質の改善や商品の独自性、ブランドなどが挙げられていたわけですが、すべて戦略ではないことがわかります。マイケル・ポーターはこれらの意見を業務効果という用語でくくっています。

 

意味
戦略競合と「異なる」活動を行う。また競合と類似の活動を「異なる」方法で行う。
業務効果競合と類似の活動をより優れて実行する。

 

前提として企業の成功には、戦略と業務効果の両方が不可欠です。問題なのは戦略と業務効果を区別できず、戦略の策定に業務効果を考えてしまうことです。引用した意見もそうでしたが、主にマーケティングやブランドの問題点を挙げて改善するのは業務上の改善にしかならず、優位にたつことはありません。

ちなみにマイケル・ポーターは戦略の活動をわかりやすくマッピングした活動システムマップというツールを開発しています。

 

IKEAの活動システムマップ
これはIKEAの活動システムマップです。一般的な家具店とは異なり、広大な店舗を使って販売する家具をすべて部屋のように展示し、一本の道を作っています。顧客をサポートする販売員はいません。展示しているショールームの最後には倉庫があり、箱詰めされた製品が積まれていて、顧客が自分で持ち帰って組み立てるという流れができています。

 

活動システムマップは企業の主要な活動と価値提案の関係を図に表したものです。価値提案の核となる要素は大きな丸となっていて、他に事業内で行われている顕著な活動や顧客価値の創出と関係が深い活動、コストがかかる活動を特定します。

続いてマップに書き込んだ活動を適合性が存在する箇所を線で結びます。このようにマッピングしていくと、蜘蛛の巣のようにマップができてきますが、結びつきが少ないマップは戦略の脆弱性を示すことが多いです。

 

今後のAI時代にバリューイノベーションは再注目されるかも

戦略のあるべき姿を考えるときに、バリューイノベーションという概念は根本的なものになってきます。今後AIが各産業に普及してくると、「技術革新こそが競争戦略」という意見が増加してくるはずです。

今回紹介した戦略の姿を少しでも理解された方は、この意見が間違いであることがわかるでしょう。というのも、AIによる革新は企業活動の1つに過ぎず、それ自体が戦略の主要因になることはないからです。

ものの見方としてAIを点で見るか線で見るかの違いは、AIによる各業界でのイノベーションが起きた後に大きな違いが出てきます。例えば、近年ではAIの技術をタクシーに利用した事業が始まりました。

 

 

これはAIタクシーと呼ばれるもので、タクシーの需要予測をリアルタイムで表示してお客さんの待ち時間を短くするというものです。タクシー側も効率的な運行が可能で、電車の遅延やイベントなどの変動にも対応し、生産性の向上が見込めます。

このAIを利用した事業は既存のタクシー事業に破壊的な影響を及ぼすのは間違いありません。事業側は無駄を減らしてコストを下げられますし、提供価値として待ち時間の短縮が行なえます。

 

AIを使える企業
部分的には「AIを使える企業」VS「AIを使えない企業」という構図になるわけです。しかし、ここで成功した企業が「戦略=技術」と勘違いすると、AIタクシーが一通り普及した後で悲劇が起きます。

 

というのも、他社がAIを導入して競合が激しくなった末に「AI技術をもっと改善するべき」という意見が出てくるからです。この意見は本質的に「品質を改善する」「商品の独自性を高める」という意見と違いがありません。本来戦略において重要なのはAIによるバリューイノベーション(提供価値と低コスト化)だったのですが、AIのインパクトが強すぎて「技術を重視すれば成功する」にすり替わったわけです。

言い換えれば、価格競争と変わらない技術競争に陥る可能性があります。AIが多くの産業でイノベーションを起こすのは同感ですが、その中で技術を「提供価値の向上」と「低コスト化」の”手段”として見ている人は長期的に成功するかもしれません。

今回は戦略の概念をテーマに説明したので、実践的な方法までは解説できませんでした。この戦略の概念を実践的で体系的に仕上げたのがブルー・オーシャン戦略なのですが、中々普及していないのが現状です。ブルー・オーシャン戦略も誤解が本当に多い戦略なので、別記事で紹介します。

それではぜひ参考に。

 

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