【P&Gシリーズ】戦略・マーケティングの策定方法をまとめました

2021年1月12日

P&Gマフィア

 

今回はP&G出身の方の戦略・マーケティング策定方法をまとめていきます。私は「マーケティングで有名な会社といえば?」と聞かれたら、必ずP&Gと答えます。それくらいマーケティングに秀でた会社の1つで、有名なマーケターの方もP&G出身者が多いです。

特にP&G出身の方が執筆された本が好きで、戦略やマーケティングは彼らから多くを学びました。ただノウハウの量が尋常じゃなく多いので、整理する意味でも1記事にまとめました。

 

P&G出身者が定義する戦略とは?

戦略の定義は経営学の書籍を読んでいても、たくさん出てきます。しかし、P&G出身者の方の定義はほとんど一致していました。

 

戦略とは、目的を達成するために資源を配分する「選択」のこと。

森岡毅

戦略とは、目的達成のための資源利用の指針である。

音部大輔

戦略とは、目的を達成するための、限られた資源の最も効率的な活用法。

杉浦里多

戦略とは、勝つための一連の選択のこと。

A・G・ラフリー

戦略とは、目的達成のためにリソースを何に使うのかという選択。

石井賢介

 

上記を見ると、主に「目的」「資源」「選択」という3つのキーワードが入っています。P&G流の戦略とは、「目的」のために「資源」を配分する「選択」と定義しているのでしょう。P&Gが戦略の定義まで社内に浸透させているというのは驚きました。

 

P&G式戦略の考え方

P&G出身者の戦略の考え方は5ステップになっていることが多いです。

 

戦略策定の5ステップ

  1. 目的
  2. 状況(戦況分析、環境分析)
  3. WHO(誰に)
  4. WHAT(何を)
  5. HOW(どのように)

 

P&Gの中でも人によって異なる部分はありますが、概ね上記の5ステップで示されています。

話は少し変わりますが、構造構成主義というすべてに当てはまる普遍的な本質を探る学問があります。この学問では、方法の本質とは、「特定の状況で特定の目的を達成するための手段」と定義されています。この考え方で重要なのは「目的」「状況」であると、研究者の西條剛央さんはおっしゃっていました。つまり、戦略やマーケティングの「方法」を考えるときに、目的と状況について考えることは本質的と言えるのです。

また「誰に、何を、どのように」売るかはマーケティングの基礎と言えます。特にこの並びが良いのは、WHOが最初に来ている点です。P&Gの書籍には、「消費者がボス」という言葉がよく出てきます。顧客志向が会社全体で、推奨されているのだとわかります。

この5ステップはシンプルですが、本質的なフレームワークだと考えています。この5ステップをもとにマーケティングを考えていきたいので、それぞれ深く見ていきます。

 

目的

戦略を考えるときは目的を明確にする必要があります。組織の規模に関わらず、目的が不鮮明で失敗につながるケースもしばしば。しかし、「良い目的とはどんな目的ですか?」と聞かれて、すんなりと答えられる人は少ないと思います。

適切な目的設定に使われるツールは2種類あります。有名なのは「SMART」という概念ですが、P&Gでは「SMAC」という概念が用いられています。

 

SMAC

具体的、測定可能、達成可能、一貫性がある

SMART

具体的、測定可能、達成可能、関連性がある、期限設定

 

SMAまでは同じ単語の頭文字で構成されています。

 

具体的(Specific)

具体的とは、目的に対する解釈の差を小さくするという意味です。具体的にする方法として、「数値化する」ことが挙げられます。例えば、目的が「業界の中で存在感のある会社になる」ではなく、「10%の金額市場シェア」の方が解釈の差は圧倒的に小さくなります。

 

グループ目標
グループでたてる目標は正しい方法でないとパフォーマンスを落としてしまう

 

測定可能(Measurable)

具体的と言っても、測定できなければ意味がありません。例えば、目的が「10%の市場シェア」の場合は金額なのか、市場なのかがわからないので、測定可能とは言えません。なので、必須な要素として「単位を明確にする」わけです。数値化して、測定方法が明確であれば、ムダな議論を避けられます。

 

達成可能(Achievable)

達成可能とは、目的の達成が可能であるかどうかです。しかし、達成可能であると担保するのは簡単なことではありません。しかし、非現実的な目的を設定してしまうと、戦略をたてる意味がなくなります。そこで、達成可能かどうかを考えるために「帰納的な考え方」「演繹的な考え方」の2つを使って検討します。

 

帰納的

帰納的とは、事実や事例から法則を見つけて考える方法です。例えば、市場シェアを目的と設定した場合は過去の実績をもとに、マーケティング予算や店頭の状況などを変数として入力し、市場シェアを予測するというのが挙げられます。他にも、1年ごとの推移を見て予想するという簡易的ですが、予測として達成可能かを検討することができます。

 

演繹的

演繹的とは、理論を前提として結論を導き出す方法です。帰納的とは違い、過去の実績ではなく、論理の積み上げで達成可能かを検討するわけですね。例を挙げると、目的を市場シェア10%、現在の市場シェアが5%とします。目的との差は市場シェア5%分とわかるので、その成長のために必要な売上高や新規獲得の顧客数を計算していくというイメージです。

 

これらの方法を使って、目的が明らかに達成不可能となっていないかを考えていくわけですね。

 

一貫性がある(Consistent)/関連性がある(Relevant)

一貫性と関連性は似た概念なので、1つにまとめました。一貫性は理念・ビジョン・戦略・戦術と概念がある中で、一貫しているかどうかという意味です。一方の関連性に関しても、理念や戦略がある中で関連性が保たれているかどうかという意味です。

 

期限設定(Time-bound)

最後はいつまでに目的を達成するのかという期限設定です。ちなみにSMACの中に期限設定(T)がないのは、時間も資源と考えているからだとか。

 

状況

状況分析の目的は市場構造を理解して、味方につけるためのものです。ビジネスに限らず、人間の営みは構造的な仕組みに収束します。この構造を1つの機械と捉えて、仕組みを理解することが重要です。分析を本気でやる理由は、市場構造に逆らって確実に失敗する「地雷」を避けるためです。そして、その市場構造を自分の味方につけられるような戦略がないかを考えるためです。

 

5C分析

5C分析とは、5つの領域を視る分析です。自社・消費者・取引先・競合他社・社会の5つを理解します。

 

5C分析

  1. 消費者
  2. 自社
  3. 取引先
  4. 競合他社
  5. 社会

 

消費者

消費者への理解はマーケティングの真髄ともいえる課題です。このような市場調査の本質はプレファレンスとその仕組みを解明して、マーケターが成功確率の高い戦略を選択できるようにすることにあります。プレファレンスとは、消費者のブランドに対する相対的な好意度のことです。自社ブランドに対するプレファレンスを最終消費者の視点から広い視野で多角的に診なければなりません。売上を規定している6つの基本的要素(※後述)には、消費者の主観(認知の面積と質、プレファレンス)が深く関わっており、その中心がプレファレンスです。消費者のプレファレンスを深く知ることにより、大きな戦略の間違いを起こす危険を避けることもできますし、事業の好機をとらえることもできます。

消費者理解の調査では、「量的調査」「質的調査」に分かれます。

 

量的調査

量的調査では、以下のような調査を行います。

 

量的調査

  1. 消費者のデモグラフィックデータ(年齢や性別、収入など)
  2. 商品の世帯浸透率(世帯で使用されている割合)
  3. 認知率
  4. 購入頻度
  5. ブランドへの消費者の認識(ブランド・エクイティ調査)
  6. カテゴリー商品の使用実態調査
  7. 消費者の使用率と現実の商品評価の調査

 

質的調査

質的調査はマーケターの力量がもろに出る部分です。マーケターの優劣を分けるのは「自社ブランドの文脈の中で消費者心理をきちんと理解できているかどうか」「ビジネスの文脈を超えて、消費者心理を人として包括的に理解できているかどうか」です。

良いマーケターは特定の商品に対して消費者ニーズの理解に努めるだけではなく、根本に流れる価値観や悩み、関心事、消費行動などの総合的な質的理解に努めようとします。そのため、重要なのが消費者の質的理解です。適切な質的理解を重ねていくと、消費者がその商品を買う根源的な理由が見えてきます。

主な質的調査は以下の通りです。

 

質的調査

  1. 消費者の観察
  2. 訪問インタビュー
  3. 1対1のインタビュー
  4. フォーカスグループ・インタビュー

 

自社

自社の理解では主に3つの理解が不可欠です。

 

自社の理解

  1. 自社の全体戦略:全社戦略や方針に反した行動を取ることは非効率
  2. 経営資源:どんな能力をもった人がどのくらい投入可能か、投入できる予算や承認プロセス、使用可能な設備、ブランド、特許など
  3. 強みと弱み:過去にどのようなことをして、機能した特徴は何なのか

 

自社の理解では組織がどんな全体意志を持っていて、経営資源はどれだけ持っていて、何が得意か不得意なのかを明らかにします。

 

取引先

取引先は協働して市場価値を作り上げているパートナーとも言えますし、市場価値のパイを奪い合っている競合とも言えます。理解すべきポイントは自社への理解とほぼ同じです。

 

取引先への理解

  1. 取引先の戦略
  2. 強み・弱み

 

ただ自社とは考え方の違いが多かれ少なかれあります。1社1社の理解も重要ですが、業界としての傾向にも留意しなければなりません。

 

競合他社

競合他社とは、同じカテゴリのライバルだけではありません。広義においての競合理解までやる必要があります。例えば、Netflixの競合は同じVODであるAmazon Prime VideoやYouTubeだけではなく、ゲームや睡眠も挙げられます。睡眠が競合と聞くと、大げさなように聞こえますが、創業者のリードヘイスティングスの言葉です。(1)倫理的な問題はありそうですが、それだけサービスの視聴時間を重視しているということなのでしょう。

このように、「自社ブランドが消費者に提供している価値は何なのか?」を正しく理解していれば、着眼すべき競合の姿は明らかになっていきます。

 

社会

社会がビジネスに影響を与える要因は数多くあります。

 

外的要因

  1. 法律などの規制
  2. 世論
  3. 税率
  4. 景気
  5. 為替レート

 

これらの外部要因は自社でコントロールできるものではありません。大事なのは自社のビジネスに多大な影響を与える「社会」要素のドライバーを明確にしておくこと、その動向をモニターして変化に細心の注意を払うことです。

 

戦略策定における考え方

 

マーケティングはどれだけ成功確率を高められるかを模索し続ける「科学」を基本とします。そのためには、売上を支配している要素が何であるか、それらがどう機能して売上が決まっていくのかの仕組みを理解している必要があるわけです。その中にはマーケター側がコントロールしやすいものとコントロールしづらいものがあります。

 

$$売上=人口\times認知率\times配荷率\times購入率\times年間購入回数\times年間購入金額$$

 

コントロール主要因①主要因②
認知率認知ドライバー広告量
配荷率○~△プレファレンス店頭状況
エボークトセットに入る確率プレファレンスポートフォリオの銘柄数
年間購入率カテゴリー購入回数プレファレンス
年間購入回数カテゴリー購入回数プレファレンス
平均購入金額価格(サイズ選択肢)プレファレンス

※確率思考の戦略論で過去の購入率が含まれていますが、今までの購入経験がありでなければ、エボークトセットにも入らず、1年間の購入もないという理屈がどうしても理解できなかったため、今回は外しました。なぜ消費者の購買フローに入っているのかわかる方はご教示いただけると助かります。

 

6つの内で容易にコントロールできるのは「認知率」「平均購入金額」です。配荷率に関してはカテゴリによって差が大きいです。年間購入率や年間購入回数はカテゴリ購入回数が決めており、プレファレンスを根本的に改善しない限り増えません。

このように見ると、カテゴリーの構造であるカテゴリー購入回数やエボークト・セット内の好みが大枠を決めているのがわかります。つまり、フォーカスすべきは競合に対して相対的な「プレファレンス」を向上させることです。プレファレンスを上げることは売上を伸ばすことであり、マーケットシェアを増やすことです。シェアが上がれば、配荷率も上がり、利益率も上がります。

 

プレファレンス

プレファレンスとは、消費者のブランドに対する相対的な好意度のことです。マーケターは「市場構造を決定づけているDNAは消費者のプレファレンスである」と頭に入れておかなければなりません。なぜなら、消費者のプレファレンスによって決定される購買行動の仕組みはどのカテゴリーにおいても同じだからです。もちろん、それぞれのカテゴリーに対するプレファレンスの違い(例:購入頻度や購入回数など)はありますが、プレファレンスに基づいてカテゴリーの構造が形成されるという法則に従っています。

 

購買行動を支配する法則

  • あるカテゴリーにおける各消費者の購入はそれぞれ独立して起こる(消費者同士で影響しない、相談して買わない)
  • あるカテゴリーにおける購入時のブランド選択は、消費者のそれぞれのブランドに対するプレファレンスによって決まる確率に従い、その時点でどのブランドが選択されるかはランダムに決まっている(多項分布)
  • あるカテゴリーにおける消費者のブランド選択は、プレファレンスの順位が高いほど、購入確率がより高くなる傾向にある(ガンマ分布)
  • あるカテゴリーにおける消費者のブランド選択は、プレファレンスによって定まる確率に従い、それはカテゴリーの平均購入回数の多い少ないに関係がない

 

4つの法則を簡単に言うと、消費者の頭の中には今までの経験から買って良いと思ういくつかの候補となるブランドがあるということです。この購入候補であるブランドの組み合わせを「エボークト・セット(想起集合)」と言います。

 

エボークトセット

 

例えば、コンビニにアイスを買いに行く場合はだいたい買うものがイメージできているはずです。仮に「MOW」「ピノ」「チョコモナカジャンボ」「雪見だいふく」だとします。この時、買っても良いと思っている4つのブランドの中からその時々で買うブランドをランダムに選んでいるのです。消費者は誰でもこのエボークトセットを持っており、プレファレンスに基づいてそれぞれのブランドを購入する「確率」が決まっています。わたしの場合は50%、30%、10%、10%くらいの確率です。人はそれぞれプレファレンスに基づいたエボークトセットに合ったサイコロを持ち、カテゴリーの購買回数の分だけサイコロを振っているようなものなのです。

ちなみにプレファレンスは分解すると、「ブランド・エクイティ」「製品パフォーマンス」「価格」の3つで構成されています。

 

ブランド・エクイティ

ブランド・エクイティとは、消費者の頭の中にあるブランドイメージのことです。最もプレファレンスを支配しているのはブランド・エクイティです。製品を使用した感想も、価格に対する感想もブランドエクイティになるので、プレファレンスを決定する究極の要素と言えるわけです。このブランドエクイティは競合他社との相対で決まります。

 

ブランド・エクイティの測定

  1. 消費者にとって購買意思決定を左右する重要な判断軸は何なのか?
  2. エクイティを所有しているのは誰なのか?
  3. 自社ブランドのエクイティは何で、競合に対して強みと弱みはどのあたりにあるのか?

 

これらを測定して、消費者の頭の中にある自社ブランドの相対的なポジショニングを知ることから始めます。

ブランド・エクイティに関する調査方法は色々ありますが、定番的な手法で問題ありません。ただし、経年で比較ができないと意味がないので、コロコロと調査手法やエクイティの表現を変えてしまわないように注意します。エクイティの実測値と消費者のプレファレンス(シェア:できればユニットシェア)の相関関係を分析して、「M」を増やすために重要なエクイティが何であるかを理解します。

そして、新しくブランド・エクイティを獲得しようとしても、すでに競合が強固に所有している場合は強奪は簡単ではありません。だからブランド・エクイティは文字通り「財産」なのです。2番手や3番手が挑むには、それなりの策や経営資源が必要になります。そこで行うのが「ポジショニング」や「差別化」です。

 

ブランド・エクイティの手段

  1. ポジショニング:大きな競合のポジショニングの裏側を狙うカウンターポジショニングはNo.1ブランドにはなりにくいですが、巨人からの攻撃には遭いにくい戦い方
  2. 差別化:核となっているエクイティに付加要素を与えてより優れた便益に見せる手段

 

ブランド・エクイティについてはWHATの章でも詳しく解説します。ここで重要なのは、ポジショニングや差別化は「M」を増やすためにやっている目的意識です。消費者のターゲティングや差別化もそうですが、狭めるためにやっているわけではありません。目的はあくまでプレファレンスを伸ばすことだと肝に銘じましょう。

 

製品パフォーマンス

製品パフォーマンスのプレファレンスへの影響はカテゴリーによって大きく変わります。製品の機能が重要視されるカテゴリーでは、一度製品パフォーマンスで満足させられるとエボークトセットに入りやすいのです。逆に機能が重視されないカテゴリでは、ブランドエクイティの増強に集中しなければなりません。

注意したいのは、製品パフォーマンスの優劣は「消費者が判断するべき」ものです。R&Dの責任者や技術者が作り手のエゴで判断するものではありません。製品パフォーマンスの測定では、消費者が判断する文脈に近づけて、消費者に使わせてみて、反応を客観的に測定するシステムが必要となります。

製品パフォーマンスに関する重要な2つの調査方法として、「シングル・プロダクト・ブラインド・テスト」「コンセプト・ユース・テスト」を紹介します。

 

シングル・プロダクト・ブラインド・テスト

このテストは製品パフォーマンスを測定するためのものです。具体的には、ブランド名を伏せてカテゴリーの名称だけ書いた白いパッケージを使用します。白いパッケージに入った自社の製品と他社の製品をそれぞれ異なるグループの人々に使ってもらい、製品評価をしてもらいます。それぞれのグループは目的にもよりますが、1グループ300人程度です。参加者は無作為に抽出し、募集をかけるようにできればベストでしょう。(例:調査会社が電話帳により無作為で募集など)

このテストで最も重要視していた指標は、総合評価です。総合評価の質問は「製品をお使いになって、すべてをお考えになって評価してください。あなたのお気持ちに最も近い選択肢をお選びください」と聞きます。

選択肢は以下の5段階に分類し、点数をつけます。

 

選択肢と点数

  1. 非常に良い:100点
  2. 良い:75点
  3. 普通:50点
  4. あまり良くない:25点
  5. 全然良くない:0点

 

回答に対して点数をつけて、全体の平均値を算出します。マーケットシェアが1位の競合製品に対して、総合評価の平均値が80対75のような形で統計的に有意差をつけて勝つことを目指すわけです。洗剤のような機能が重要なカテゴリーでは製品パフォーマンスが非常に重要で、製品テストの総合評価とマーケットシェアに高い相関があります。

 

製品パフォーマンスの注意点

洗剤の事例では総合評価に対して重要な要素を重回帰分析した結果、「汚れを落とす力」「香り」「すすぎのしやすさ」という順番で重要でした。よって、製品開発部は最初の2つの要素に力を注いでおり、この考え方は非常に論理的で誰にも疑う余地はありません。1987年当時は洗剤の主流のサイズは4.1kgというかなり大きなサイズでした。ここまで大きくなったのは大きなサイズでより安く売るという価格競争が進んだため、物理的に持ち運びができる限界のサイズに行き着いたわけです。当然このサイズではスーパーや薬局ではこの洗剤を買うと他に買い物ができません。

そんな時、花王からコンパクト洗剤「アタック」が新商品として発売。主要なサイズが1.5kg(60回分)で、デカサイズの900円より少し安い870円で売り出されました。消費者は相当困っていたのでしょう。当時のマーケットリーダーはライオンでしたが、一瞬でアタックが60%のシェアを獲得してNo.1ブランドになったのです。アタックはコンパクト洗剤という新しい洗剤カテゴリーをお客さんの心の中に築きました。しかも、お客さんに有益かつ異なる便益(強力な洗浄力と軽くて持ち運びしやすい)を提供することで圧倒的なプレファレンスを構築したのです。

当時の業界は「汚れを落とす力」のみに重点を置きすぎていました。消費者の視点から「商品の購入→自宅への運搬→使用→パッケージの廃棄→環境への影響」という一連のサイクルをみる必要性を痛感する事例です。

 

コンセプト・テスト/コンセプト・ユース・テスト

コンセプトテストは既存商品の改善や新商品のアイデアの選択を診るために使われます。一方のユーステストはコンセプトと商品のマッチングを診るために使われます。コンセプトとは、ブランド名や商品の便益、パッケージの写真、価格などが載った簡単な商品広告のようなものです。1つのコンセプトに対して、500~1000人の対象者から意見を聞きます。3つのコンセプトの場合は3倍の人が必要です。

コンセプトテストでは以下の質問をします。

 

コンセプトテストの質問

  1. 購入意向
  2. 買う理由・買わない理由
  3. 1年間の購入頻度
  4. 購入サイズ
  5. 1回あたりの購入個数
  6. 価値
  7. 好きな度合い
  8. ほか製品との違いの度合い

 

この中で最も重要なのは購入意向です。なぜなら、購入意向が消費者のプレファレンスを最もよく表しているからです。購入意向の質問は「この製品のコンセプトをご覧になって、あなたはどの程度この製品を買ってみたいと思われますか。あなたのご気持ちに最も近いものを1つお選びください。」と聞きます。選択肢は「絶対に買うと思う」「たぶん買うと思う」「買うかもしれないし、買わないかもしれない」「たぶん買わないと思う」「絶対に買わないと思う」の5つです。

ユーステストでは製品の使用後に以下のような質問をします。

 

ユーステストの質問

  1. 購入意向
  2. 買う理由・買わない理由
  3. 1年間の購入頻度
  4. 期待に見合ったかどうか
  5. 購入サイズ
  6. 1回あたりの購入個数
  7. 価値
  8. 好きな度合い
  9. ほか製品との違いの度合い

 

違いは「期待に見合ったかどうか」が追加されている点です。2つのテストにおいては、購入意向と購入頻度がプレファレンスの強さを表す指標になります。

使い分けとしては、コンセプト・ユース・テストはシングル・プロダクト・ブラインド・テストよりも消費者のプレファレンスを診るのに適しています。シングル・プロダクト・ブラインド・テストはプロジェクト初期における製品のスクリーニングに適しており、プロダクトの予期せぬ問題点や便益を知ることができます。

 

価格

価格は前提として、最終的に価格を決定するのは消費者であるということです。ただし、戦略上の目的としては、自社が目指すポジションに適した価格を決めるべきです。世の中の企業には安く売る会社と高く売る会社が存在していますが、中長期的な観点でブランディングを考えた場合はプレミアムプライシングが多くの戦局において正しいと考えています。

競合よりも高い値段をつけてビジネスが成立しているということは、それだけ付加価値のあるブランドとして消費者に支持されているということです。つまり、ブランド・エクイティが価格のマイナスな影響を跳ね返すほど強く、プレファレンスが成立しているわけですね。

またお客さんを継続的に喜ばすために必要な原資を獲得するためには、プレミアムプライシングでないと難しいです。製品パフォーマンスの継続的な改良やブランド・エクイティの継続的な強化には投資が必要となります。その意味では消費者と企業は、プレミアムプライシングや値上げによる果実を共有しているのです。

 

戦略の3つの焦点

売上は消費者のプレファレンスによって、最大ポテンシャルが決まります。この最大ポテンシャルは「認知」と「配荷」によって制限されるので、現実のビジネスの結果が決まってくるわけです。つまり、実質的に売上を伸ばすためには、以下の3つしかありません。

 

戦略の3つの焦点

  1. プレファレンスを高める
  2. 認知を高める
  3. 配荷を高める

 

戦略の策定では最初から3つのビジネスドライバーに絞って探していくことで、確率の高い戦略に早くたどり着けるわけです。ほとんどのビジネスの問題はプレファレンス以前に、「認知」と「配荷」にわかりやすい問題があります。認知と配荷はそれぞれの割合によってブランドの可能性を制限されるので、拡げられると効果抜群です。

例えば、市場で認知率と配荷率が50%ずつしかないのであれば、プレファレンスによって決定された最大のポテンシャルが25%まで制限されます。(最大1.0✕認知0.5✕配荷0.5=0.25)一方でどちらかのドライバーを80%まで伸ばせると、最大ポテンシャルが40%まで上昇し、今までは25個しか売れなかったものが40個まで売れるようになるわけです。

 

認知

認知率は伸びに対して、ある程度までは直線的な関係で結果が出ます。自社ブランドの認知率が競合と比較して低いのであれば、ラッキーです。なぜなら、勝てる戦の可能性が高く、後は伸び代をどう埋めるかを考えて戦略を立案するだけだからです。

ただし注意したいのは「認知の質」です。認知の質とは、お客さんが認知している内容のことを言います。認知の質には主に3種類あります。

 

認知の質

  1. エイディッド認知:ブランド名を聞いて知っている割合
  2. アンエイディッド認知:カテゴリー名のブランドを聞いて知っている割合
  3. 第一ブランド想起率:カテゴリー名のブランドを聞いて真っ先に浮かぶ割合

 

エイディッド認知は「ブランド名(例:Amazon)を知っていますか?」という質問によって得られる認知率のことです。この指標は認知の最大面積を測定するのに適しています。質問がシンプルなので、データの均一性に優れているのも良い点です。データの比較やベンチマークがしやすくいのが特徴です。

アンエイディッド認知は「ブランド名(例:洗剤)と聞いて思い浮かぶブランドは何ですか?」という質問によって得られる認知率のことを言います。認知の本質はお客さんの頭の中に「買っても良いと思っているいくつかのブランド群」の中に入っているか(エボークト・セット)です。なので、マーケターが重視するのはアンエイディッド認知といえます。

第一ブランド想起率はアンエイディッド認知の質問に対して、真っ先に答えたブランドの割合を言います。第一ブランド想起率や第二ブランド想起率はエボークト・セットと相関性が高いので、特に重視されています。

 

これらの認知指標を定期的に測定し、増減のトレンドや競合他社との差をモニターすることはマーケティングの基本中の基本です。特にアンエイディッド認知や第一ブランド想起率を見ると、ブランド成長のための伸び代が見えてくるはずです。圧倒的なNo.1ブランドでもない限り、認知の面積や質に伸び代があります。

しかし問題となるのは認知を上げる戦略にどれだけの経営資源をかけられるか、かけるべきなのかという判断です。認知率は同じ20ポイント増やす場合でも、20→40に比べて、70→90の方が何倍もの費用がかかります。

CM投下量とCM認知をゴンペルツ曲線で表した図では出稿量が少ない段階では効果が出づらく、そこから急激に効果が高まり、一定の高さから効果が鈍くなると示されています。

 

CM認知率とCM投下量

引用元:CM認知率の上限値は何パーセントか?~「テレビコマーシャルカルテ」より~

 

またブランドによっては、認知率の面積を広げることが必ずしも長期的なブランドの成長につながらないケースもあります。例えば、高級ブランドでは市場のほとんどの消費者が購入できないため、費用対効果が悪いです。さらにマスマーケティングでブランドを毀損するケースもあるので、リスクを考える必要があります。

 

配荷

配荷率とは、市場にいる何%の消費者がその商品を買おうと思えば物理的に買える状態にあるかという指標です。配荷率も伸び代があれば、ラッキーです。認知と同様にほぼ確実に売上を伸ばすことができます。

また配荷率にも種類があります

 

配荷率の種類

  1. ストアカウント配荷率:ドラッグストアや大型スーパーが自社ブランドを取り扱う店舗数の割合
  2. ビジネスウエイト配荷率:ストアカウント配荷率から店舗の売上規模やカテゴリーの売上規模を考慮した割合

 

配荷率は多くの競合ブランドとの奪い合いなので、大きなエネルギーが必要になります。小売店から見ると、売上を最大化する組み合わせで各社のブランドを置きたいわけですが、それが必ずしも自社ブランドであるわけではありません。小売店の棚の売上を最大化するための核心は、お店に訪れるお客さんのプレファレンスに合わせて棚を作ることです。つまり、自社ブランドがそれぞれの小売店にとって、「確固たる役割」を果たせるかどうかが重要です。

 

プレファレンス

プレファレンスは3つの焦点の中でも、ブランドの最大ポテンシャルを決めている最重要な要素です。消費者のプレファレンスは自社ブランドが選ばれる確率として、負の二項分布の式で計算できます。数式を計算できるようになる必要はありませんが、式に出てくる「M」と「K」は理解する必要があります。

 

NBDモデル(負の二項分布)の式:

$$Pr=\frac{(1+\frac{M}{K})^-K・\Gamma(K+r)}{\Gamma(r+1)・\Gamma(K)}・(\frac{M}{M+K})^r$$

 

ややこしく見える式ではありますが、実際のところコントロールすべきは「M」だけです。Mとは、消費者が自社ブランドを選択した回数をすべての消費者数で割った数値です。簡単にいえば、選ばれる確率のことです。

一方のKとは、消費者の購入確率がどのような分布になるかを決めている指標です。Kが変化すると、確率分布の形状が変化するわけですが、Kを決めているのはM(プレファレンス)となっています。つまり、実際のところマーケター側でコントロールする指標はMであって、Kではないということです。

そして、選ばれる確率であるMを伸ばすために必要なのがプレファレンスということです。戦略の本質が「市場全体の中で自社ブランドへの投票数をどう増やすかを考えること」と言われるのはこれらが理由です。

プレファレンスを伸ばす戦略は2種類あります。

 

プレファレンスの戦略

  1. プレファレンスの水平拡大:ファンの数を新しく増やして、投票を拡大する戦略
  2. プレファレンスの垂直拡大:既存のファン1人あたりにもっと多くの投票をしてもらう戦略

 

水平拡大は主に新規獲得を強化し、垂直拡大が既存のファンに対してプレファレンスを強化するというイメージです。P&G出身者の多くは既存の消費者よりも新規の消費者を獲得する方が成功しやすいと言います。理由は既存ユーザーを深堀りするよりも、外を耕す方がマーケットがずっと大きいからです。

逆に注意したいのは消費者を区切ってターゲティングすることはMを増やすためであって、自社ブランドのMを狭めるためではないという点です。いわゆる差別化という名目で、自社ブランドのMを不必要に狭めてしまうケースが多いです。あくまで自社ブランドの市場全体におけるプレファレンスを拡大するのが目的であって、ターゲティングは1つの手段でしかありません。

 

目的から戦略への落とし込み

戦略の策定は達成したい目的があるときに、目的が達成できているときの状況を想像力と数値を使って徹底的に考え抜くことです。とにかく最初にやるべきはゴールの達成状況を具体化していくことです。特に目標達成時に主なビジネスドライバーがどうなっているべきか、具体的な数値に当てはめていきます。次に具体的な数値とのギャップを埋めるために、戦略を考えていきます。

目的を設定した後に、目的達成時と現在のギャップを定量化しながら徹底的に想像します。目的を到達するために、市場全体の中で新たに獲得するべき「M」の数量を明確にするわけです。さらにMとして狙うべき消費者ターゲットは誰であるべきか、必要なプレファレンスの増加を実現するドライバーはどれとどれが必要で、それぞれどういう数値になっているべきかを考えます。

ここではUSJを例として、目的は「3年以内に1000万人の集客を達成」と仮定し、どんなことを考えるのかをまとめました。

 

考える例

  1. 1000万人も集客するために、必要なブランドの強さはどの程度必要か?
  2. キーとなるブランド・エクイティは何で、認知率はどの程度になっているべきか?
  3. 1000万人のMの内訳はどうなっているか?:年齢や性別、エリア、通常パスとプレミアの割合など
  4. 各種チケットの値段はどうなっているべきか?
  5. その値段を可能にするアトラクションやイベントはどんなものをどのくらいの頻度で行っているべきか?
  6. その時には今の組織にどのような人材を増強しておくべきか?
  7. 組織として獲得すべき必要な能力はなにか?
  8. 新たに整備する組織システムはなにか?

 

目標達成下の条件の組み合わせを想像力で描きだして、需要予測などのビジネス結果を予測するモデルを使って科学で妥当性を検証します。目的である解を導き出すために必要な諸条件を変数としておいて、具体的な数値をあてはめて、達成に現実感のあるシナリオを明確化していくわけです。このようにして、想像の産物であった条件の組み合わせは具体的な達成確率の検証によって、目的を達成する戦略へと変貌を遂げます。

ただ必ずやるべきこととして、ベストシナリオとは別の道筋で達成する戦略をもう1つ考えてみましょう。というのも、プランBを考えておくだけで多くの局面にある危機を未然に防げます。具体的には前提としていた想定の脆弱さや盲点に気づくことができるのです。

 

WHO

WHOとは、限られた経営資源を投下する目標となる消費者のことです。考え方として「総マーケティング予算÷ターゲット総数」で、1人あたりのマーケティング予算で算出します。この1人あたりのマーケティング予算が認知形成や購買意欲を掻き立てるのに十分であればよいのですが、たいていの場合薄い予算では「勝てるライン」に届かず、全負けとなる可能性が高いです。なので、マーケターは1人あたりのマーケティング予算が十分になるように、ターゲットを選ぶ必要があります。そのターゲット選択を「WHO」と呼びます。

WHOの考え方は色々ありますが、セグメント分類した顧客分析「顧客ピラミッド/9セグマップ」と実在する顧客一人ひとりを深く理解する「N1分析」についてまとめます。

 

顧客ピラミッド

顧客ピラミッド

 

顧客ピラミッドは顧客層に応じて、5つにセグメント分類する手法です。顧客分析には色々なフレームワークが存在しますが、最もシンプルかつ汎用性が高いのは顧客ピラミッドだと考えています。なぜなら、簡単な3つの質問で調査できるので、低費用なネット調査で十分だからです。

 

顧客ピラミッド作成の質問

  1. 〇〇というブランドを知っていますか?
  2. これまでに買ったことがありますか?
  3. どのくらいの頻度で買っていますか?

 

頻度による分類は主観で判断してOKです。アプリなどの無料サービスの場合は使用経験と頻度を聞きます。

 

調査ツリー

 

例えば、スキンケア製品の場合は年に2本以上そのブランドを購入する場合はロイヤル顧客、年1回以下の場合は一般顧客とします。ニュースアプリの場合では毎日使用がロイヤル顧客、毎月使用が一般顧客とし、それ以下は離反顧客に分類します。

このフレームワークで売上について考えると、以下のような式が成り立ちます。

 

$$売上=ロイヤル顧客数\times購入金額\times購入頻度+一般顧客数\times購入金額\times購入頻度$$

 

この場合、マーケターはロイヤル顧客数と一般顧客数を拡大し、それぞれの単価と頻度を向上させて、売上を最大化させつつ、費用対効果も高め、利益率を向上させる必要があります。マーケティング手法は色々ありますが、顧客ピラミッドで考える戦略の選択肢は主に5つです。

 

顧客ピラミッドから考える戦略

  1. ロイヤル顧客のスーパーロイヤル化
  2. 一般顧客のロイヤル化
  3. 離反顧客の復帰
  4. 認知・未購買顧客の顧客化
  5. 未認知顧客の顧客化

 

上位への働きかけほどCRMを中心としたターゲットの絞り込みや1対1のコミュニケーションが必要となり、下位ほどリーチが広いテレビなどのマス媒体を活用したコミュニケーションが有効になってきます。5セグメントのどこに注力すべきかは競合や顧客特性などで異なります。

一般的には、上位に投下するほど利益性が高まり安定するものの、同時にニッチ化を招き、規模拡大のスピードは見込めなくなることが多いです。いわゆるCRMやロイヤルティプログラム偏重によって陥りがちなパターンです。

 

N1分析

N1分析とは、セグメントごとの「一人の顧客」にインタビューして、認知や購買のきっかけと深層心理を分析することです。マーケティング上で機能する強い「アイデア」を導き出すには、実在する一人の顧客を深堀りするのが有効な方法になります。その準備として、顧客分析のフレームワークで対象ターゲット全体を把握して、「どのセグメントのN1顧客を深堀りし、何を知りたいのか」を設定します。

この分析をするときに重要なのは、購買行動を左右している根本的な理由を見つけることです。ただし、ほとんどの場合、お客さん自身も意識して購入しておらず、直接聞いても答えられないでしょう。購買行動に直結している理由とは、お客さんが「購入しているブランドが自分にとって特別な便益をもたらしてくれる」と心理的に認識するに至ったきっかけです。つまり、顧客になったきっかけ、さらにロイヤル化した重要なきっかけが何だったのかをN1分析で見つけます。

 

N1分析のやり方

顧客ピラミッドで顧客を5セグメントに分類し、売上と人数を可視化した上で、各セグメントごとにN1分析を行います。理解したいことは、「いつ、どのようなきっかけで、ブランドを知ったのか/買ったのか/ロイヤル顧客化したのか」です。N1分析のやり方は顧客セグメントの条件に合う顧客を事前スクリーニング質問(認知、購買行動、頻度)で分類して、セグメント条件の合う方にインタビュー依頼をすればいいのです。

特にロイヤル顧客層のN1インタビューは実りが多いです。ブランドへの思い入れが強い人ほど、独自性や便益を感じている方が多いので、ブランドへの購買意向を変えたきっかけを比較的見つけやすく、「アイデア」へのヒントも得やすいからです。ロイヤル顧客であれば、以下のような内容を聞きましょう。

 

質問一覧

  1. ブランド認知のきっかけ
  2. 使用意向や購買意向のきっかけ
  3. 現在の使用実態
  4. 満足/不満足
  5. 競合ブランドへの認識
  6. 好きな点と嫌いな点

 

また一般顧客にも聞いて、ロイヤル顧客とのギャップとその原因を探ります。離反顧客には、どこに離反のきっかけが合ったかを掘り下げます。

認知・未購買顧客や未認知顧客はブランドの説明をしていて、「プロダクトアイデア」や「コミュニケーションアイデア」自体に魅力を感じてもらえないのか、単に伝わっていないだけでメディアや認知の問題なのかを確認します。さらにロイヤル顧客が評価している商品の良さを話して反応を見れば、どこに問題があるのか、どんなきっかけを提供すれば顧客化するのか可能性が見えてくるわけです。

手始めにロイヤル顧客層が10人ほど実行すれば、なぜロイヤル化したのか、そもそもなぜ使い始めたのかきっかけの候補が見つかります。さらにそれ以外の顧客層でもN1分析を続けて、ロイヤル顧客層で得られたきっかけが出てこなければチャンスです。ロイヤル顧客との内容をアイデアとして、それ以外の層とのインタビュー時に「こういう提案があったら、どうですか?」と質問し、好意的な反応があれば大きなリターンが見込めます。

 

注意

注意すべきは最初に使い始めた理由と今現在ブランドを愛用している理由を混在してしまうことです。例えば、シャンプーの事例では「なぜ買い続けているのか?」という質問に、半数以上が「髪がしっとりサラサラになる」と回答します。しかし、これを真に受けて、そのまま広告で訴求してもまったく売れません。なぜなら、便益や独自性のある提案でなければ、初回購買は起きづらいからです。例としては「髪がクリスタルのように輝く」や「朝、寝癖のない髪に」などです。ロイヤル化した理由とトライアルの理由は混同しがちなので注意しましょう。

 

カスタマージャーニーの抽出

ロイヤル顧客10人にN1分析を行い、一人ひとりのカスタマージャーニーを描きます。効率的にやるなら、N1インタビューの際に、手元で時系列のカスタマージャーニーを描きながら、顧客から「このときはこんなできごとがあった」「こんな気持ちだった」と聞き、一緒に考えていくのが有効です。10人分のカスタマージャーニーを作成すると、ブランドとの出会いや認知、初回購買、継続購買、購買頻度の変化が十人十色で見えてきます。

一方で多くの企業で作られているカスタマージャーニーは想像で平均的に作られています。会議室にこまって作られたペルソナやカスタマージャーニーはマーケティングや経営戦略を惑わすリスクがあるので、実在するお客さんに徹底的にヒアリングして作成しましょう。

 

顧客9セグマップ

顧客ピラミッドは汎用性に優れたフレームワークです。しかし、購買頻度や金額だけで定義するロイヤル顧客層は真のロイヤル顧客と言えない顧客が多く含まれています。自社ブランドのロイヤル顧客層を対象に、次回ブランド購買意向の調査をすると、自社ブランドを選ばない顧客が存在することがわかります。ここでいうブランド選好とは、好き嫌いやNPSではなく、本人の次回購買意向です。競合ブランドと並べて選んでもらうと、自社のロイヤル顧客でも購買意向が100%になることはまずありません。つまり、自社ブランドを大量に買ってくれるロイヤル顧客の心は必ずしも「次回もロイヤル」ではないのです。

このように高頻度購買層の中には、高いブランド選好に裏付けられている「積極ロイヤル顧客」と低いブランド選好の「消極ロイヤル顧客」が混在しています。そこで顧客ピラミッドをさらにブランド選好で分類したフレームワークが9セグマップです。

 

9セグマップ

 

ブランド選好の測定は顧客ピラミッドでした3つの質問に加えて、「商品カテゴリーにおいて、次回に購入/使用したいブランドはどれですか?」と聞くだけです。

 

9セグマップ作成の質問

  1. 〇〇というブランドを知っていますか?
  2. これまでに買ったことがありますか?
  3. どのくらいの頻度で買っていますか?
  4. このカテゴリにおいて、次に購入/使用したいブランドは以下の内どれですか?:自社と競合ブランドを並べる

 

質問をするときは競合ブランドを含めた選択肢から、次回の購買意向で取った自社ブランドの割合をブランド選好として活用します。この調査によって、9つのセグメントに分類するわけです。

この9セグマップは販売促進の効果を「左から右への移行」で捉えられ、ブランディングの効果を「下から上への移行」で可視化できます。短期・中長期ともにどちらの効果も計測できるため、9セグマップによる顧客トラッキングは有効なのです。もし施策の効果が見られなければ、N1分析をして新しい「アイデア」創出に取り組みたいです。これを継続的にPDCAしていくことで、顧客への理解は飛躍的に深まり、販促とブランディングそれぞれのアイデア創出の精度とスピードが必ず高まります。

注意したいのは9セグメントのうち、積極離反顧客に施策を考えるときです。マーケターの多くは「今は使っていないけど、過去に使った経験もあるし、今後も使うかもしれない」というセグメントは積極的に狙うべきでは、と考えがちです。しかし、知っていて使ったことがあるのに、使う意向がない人をひっくり返すのは容易ではありません。

しかし、考えなければいけないのは、積極ロイヤル・一般・離反顧客がどんどん縮小均衡していくという点です。どんなサービスでも一定の割合でユーザーがスイッチするのは避けられないので、積極ロイヤルが消極ロイヤル・一般顧客に移ってしまいます。どんなビジネスでもロイヤル顧客が利益を出しているので、ロイヤル顧客中心に考えがちです。しかし、そうするとどんどんマニアックなものになり、サービスが複雑化していきます。ロイヤル顧客は喜ぶかもしれませんが、一般・離反顧客はどんどん離れていきます。

そのため、今のユーザーを満足させることと同時に、常に構成比が大きい消極離反・消極認知未購買・未認知の3つに対する施策も同時に行うべきです。新しいユーザーを獲得していかないと、顧客基盤が拡大しないため、ビジネスは拡大しません。どんな商品・サービスでも常に「ユーザーの新陳代謝」が必要です。ユーザーの購買頻度を上げることも大切ですが、一番大きいセグメントに働きかけ続けることがマーケティングの基本なのです。

 

消費者インサイト

消費者インサイトとは、消費者の隠された真実のことです。インサイトを突くことで消費者は自社ブランドのベネフィットを大幅に理解しやすくなったり、欲しくなったりするのです。インサイトは「マインド・オープニング・インサイト」と「ハート・オープニング・インサイト」の2種類があります。

 

マインド・オープニング・インサイト

マインドオープニングインサイトとは、消費者の認識を大きく変えるインサイトのことです。アリエールの事例では、「除菌ができるアリエール」という訴求で発売しましたが、さっぱり売れませんでした。理由は当時衣服に雑菌がいるという認識がほとんどなかったからです。そこで、部屋干しのニオイは衣服にたくさん菌がいるからという訴求をして、便益の価値を一発で理解することができるようになりました。

 

ハート・オープニング・インサイト

ハートオープニングインサイトとは、消費者の感情を大きく動かすインサイトのことです。USJのクリスマス向けの事例では、親の切ない深層心理をエグる表現をしています。具体的には、「あなたの可愛い娘はすぐに大きくなって、クリスマスを一緒に過ごせなくなります。すぐにクリスマスイブは帰って来なくなって、ホテルで彼氏と過ごすようになります。だって、お母さんあなたも身に覚えがあるでしょう?」というものです。ここまで直接的な表現は行われていませんが、「いつか君が大きくなってクリスマスの魔法が解けてしまうまでに、あと何回クリスマスが過ごせるかな・・・」というコピーに変換されています。テレビCMでは大人っぽい表情ができる少女をキャスティングして、父親と2人でクリスマスのパークをデートしているストーリーを撮影しました。自分の若い頃を思い出させて、自分の子供もあっという間に大人になってしまうという、親にとっては切ないインサイトを突いたわけです。

 

WHAT

WHATとは、自ブランドの消費者価値を選んで明確に規定するステップです。消費者がそのブランドを選ぶ必然性、ブランドを購入する根源的な理由を戦略的に選択します。

近い概念としてブランド・エクイティというのがあります。ブランド・エクイティとは、消費者がブランドに対して持っているすべてのイメージのことです。その中でも特に重要になるのは、消費者がブランドを選ぶ理由になる「戦略的ブランド・エクイティ」です。WHATとは、この戦略的ブランド・エクイティのことを言います。ブランド・エクイティの中で根源的な便益の構成部分を戦略的ブランド・エクイティとも、WHATとも言うわけですね。さらに言えば、WHATとは、便益(ベネフィット)のことでもあります。

 

WHATの事例

  1. フェラーリ:「圧倒的な速さやエンジン音」ではなく、「成功者としての優越感」
  2. ディズニーランド:「ミッキーに会えることや映画の世界に浸れる」ではなく、「幸福感」

 

戦略であるWHATは具体的でないことが多く、消費者に聞いても出てくるものではありません。なぜなら、消費者から見える具体的なものの多くはHOWだからです。

 

WHATの考え方

WHATのアイデアは独自性とベネフィットの四象限で表せられます。

 

四象限

 

結論を言うと、独自性と便益を兼ね備えた「アイデア」があるかどうかがマーケティング上で最も重要です。独自性とは、他にはない特有の個性であり、唯一無二で、既視感のない特徴です。そうしたものに人は注目します。つまり、独自性の有無は注目に値するかどうかで確認できます。

 

四象限の意味

  1. コモディティ:代替性があるので、その価値は競合と同等に扱われる商品やサービス
  2. ギミック:ひと目を引くだけで買う価値がない商品やサービス
  3. 資源破壊:すべてのリソースを無駄使いしている商品やサービス

 

コモディティ競争もマーケティングの対象ではありますが、圧倒的な成長を達成するためには常に「アイデア」を生み出し、提供し続けなければなりません。

 

アイデアは2種類ある

アイデア

 

マーケティングにおけるアイデアは「プロダクトアイデア」と「コミュニケーションアイデア」の2つがあります。

 

2種類のアイデア

  1. プロダクトアイデア:商品やサービスのアイデア
  2. コミュニケーションアイデア:お客さんに認知してもらうためのアイデア

 

どちらも四象限を適用できますが、1が主体で2は従属関係にあります。具体的にはプロダクトアイデアに便益や独自性がないと、コミュニケーションアイデアだけでは中長期的な売上獲得は不可能なのです。

 

プロダクトアイデア

プロダクトアイデアとは、商品やサービスに独自の機能や特徴があり、具体的な便益があることです。例を挙げると、波形で厚みがある独自性を持つポテトチップスはその独自性自体が「食べごたえがあって美味しい」という便益につながっています。しかし、ただ星型のポテトチップスは形状が美味しさにつながっていないので、見た目の面白さで1回は購買されても、継続して買われることはないでしょう。

最も理想的なのは独自性そのものが便益になっていることです。例えば、スマートフォンのiphoneや宿泊サービスのAirbnb、配車サービスのUberなどがそうです。3つとも誕生したときは「独自性=便益」でした。

次に理想的なのは、確固たる独自性が便益を支えている場合です。例えば、風邪薬で「独自の有効成分〇〇が入っているから効く」という場合、「〇〇」という独自性が「風邪が治る」という顧客にとっての便益を支えています。

P&GではRTB(Reason to Believe)というマーケティング用語があります。直訳すると信じるにたる理由で、ベネフィットに対する根拠を指します。上記の例では「〇〇」というRTBがあるため、顧客が購入していて、風邪が治るという便益はどの風邪薬でも共通しています。ただし、時間が経つと競合商品が登場し、コモディティ化していきます。この競争に勝つためには、「プロダクトアイデア」をアップグレードさせつつ、コミュニケーションアイデアが必要です。

 

コミュニケーションアイデア

コミュニケーションアイデアとは、プロダクトアイデアを顧客に伝え、購買行動を起こしてもらうためのアイデアのことです。コミュニケーションの独自性とは、広告やイベント、キャンペーンの仕組みなどクリエイティブの独自性を指します。理解しやすい例として広告を挙げると、使用される言葉やビジュアル、映像、ストーリー、タレントなどに既視感のない独自性があるかどうかということです。

一方のコミュニケーションの便益とは、広告を見る顧客が具体的な便益を受け取れることを意味します。つまり、広告を見るのが楽しい、面白い、心地よいといったプラスの要素をもたらすかどうかということです。

有名な成功事例としてはソフトバンクが広告に人気の高いキャメロン・ディアスとブラッド・ピットを起用し、2007年から犬のお父さんが登場する「白戸家」シリーズのCMを展開し、大きく飛躍しました。さらに2008年からはiPhoneの独占販売を実現し、圧倒的なプロダクトアイデアとして成長を支えました。ここで混同してはいけないのは、コミュニケーションの成功と「プロダクトアイデア」自体の成功です。

話題になる広告は広告自体に面白さがありますが、必ずしも商品やサービス自体の購買に結びついているわけではありません。ソフトバンクはコミュニケーションアイデアとプロダクトアイデアを組み合わせて成功しましたが、ヒットしているCMの多くは広告が購買に結びつかないという問題を抱えています。

 

早期の認知形成

WHATには2種類のアイデアのほかに、早期の認知形成が重要な要素となります。強い独自性と強い便益をともなった「プロダクトアイデア」が開発できても、模倣してきた追随者にポジションを奪われ、ニッチな類似ブランドになってしまうことは多いです。さまざまなカテゴリーを見ても、トップブランドは後発組です。

認知を十分に作れていないから売れていないのに、見た目の売上上昇が止まったからといって投資を止めてしまうケースはよくあります。伸びないのは「プロダクトアイデア」に問題があるのか、認知不足なのかを冷静に見極めないと、成長機会をみずから摘んでしまうことになるのです。

例としてはコカ・コーラが挙げられます。世界で見るとダントツの1位ブランドですが、進出が遅れた東南アジアや中東地域では早期に進出したペプシコーラが認知形成したため、長くNo.1のポジションを維持しています。

つまり、強い「プロダクトアイデア」と「コミュニケーションアイデア」に加えて、「ターゲットへの早期の認知形成」が成功の要素といえます。逆に追随者から見ると、優れた「プロダクトアイデア」を持ちながら、認知形成が遅れている商品やサービスを見つけて、自社でプロダクト開発して一気に認知を取れば、カテゴリーを奪うことは可能なのです。

 

メモ

アイデアは事前にコンセプト評価やテストマーケティングを行ってから実行します。アイデアの創出はWHOで行ったN1分析で行いましょう。

 

HOW

HOWとは、戦略的思考の中での戦術です。フレームワークのなかでいえば、WHATをWHOに届けるための仕掛けのことを言います。Howの考え方は数多くの種類があるので、定番的なフレームワークの「マーケティングミックス」で考えます。

 

製品価格流通プロモーション
 目的顧客に提供するモノを決めるポジションに適した価格を決める効果的・効率的な顧客へのアクセス方法を決める効果的・効率的な顧客へのプロモーション方法を決める
 アプローチ商品のスペック
形状、形体
ネーミング
包装、パッケージ
セット
需要に応じた設定
コストに応じた設定
競合他社との関係
価格弾力性
卸売、小売業
小売店
ダイレクトマーケティング
コミュニケーション目標設定
プロモーション手段
広告
販売促進
人的販売
パブリシティ

 

製品

製品領域の目的は顧客に提供するモノを決めることです。技術志向の会社ではマーケティングが十分に機能しておらず、WHATをどのような製品で満たすのかという決定をマーケティングが担わないケースが多くあります。

 

製品のポイント

  1. WHAT(ベネフィット)が何であるか
  2. そのWHATを効果的に満たすプロダクトのスペックの留意点はなにか

 

マーケティング主導の会社では、上記の2つを消費者理解に基づいてマーケティングが決定し、研究開発(R&D)に担う技術陣に発注します。主なスペックやネーミング、形状、形体、サイズ、パッケージなどは、消費者ができるだけ効果的にWHATを実感できる仕掛けを要求することになります。

 

価格

価格領域の目的は、自ブランドが目指すポジションに適した価格を決めることです。

 

価格設定の考え方

  1. 需要に応じた設定
  2. コストに応じた設定
  3. 競合他社との関係
  4. 価格弾力性

 

価格の設定では、上記の考え方で意思決定します。

 

流通

流通領域の目的は、効率的かつ効果的な顧客への販売アクセス方法を決めることです。自社商品が消費者に届くまでの流通経路を設計するわけです。

 

流通の考え方

  1. 卸売業と小売業を活用する方法
  2. 小売業だけ活用する方法
  3. 卸や小売を通さずに直接販売する方法

 

市場において店頭をできるだけ広くカバーしたいという配荷率の観点と、流通マージンやさまざまなコストをできるだけ低く抑えたいという流通コストの観点をどう総合的に選択していくかを考える必要があります。

 

プロモーション

プロモーション領域の目的は、効率的かつ効果的な顧客への情報伝達方法を決めて実現することです。明確化したターゲット(コアターゲットと戦略ターゲット)に対して、リーチする媒体の選択と運用方法を決めていきます。

 

プロモーションの考え方

  1. 広告はどのように行うのか?
  2. 販売促進に必要なプランやキャンペーンはやるべきか?やるべきであれば、具体的に何をするべきか?
  3. PRはどのように行うのか?

 

これらを認知形成と購買意欲構築にまつまるコミュニケーションを統合して、戦術化していくのがプロモーション領域の仕事です。

 

参考文献

P&G式 「勝つために戦う」戦略 A・G・ラフリー/ロジャー・マーティン

世界的優良企業の実例に学ぶ 「あなたの知らない」マーケティング大原則 足立 光/土合朋宏

なぜ「戦略」で差がつくのか。―戦略思考でマーケティングは強くなる 音部大輔

1年で成果を出す P&G式10の習慣 杉浦 里多

P&G式 伝える技術 徹底する力 高田 誠

たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング 西口 一希

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門 森岡毅

確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力 森岡毅/今西聖貴

すべては、消費者のために。P&Gマーケティングで学んだこと 和田浩子

【1時間で分かる】P&G流マーケティングの教科書 石井賢介 https://note.com/141ishii/n/na578fec5ef84

 

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