「ベンチャーに計画なんていらない」という声もよく聞きますが、研究によると計画が成長性や売上、企業規模といった変数に高い効果サイズを示したと発表されています。この研究は起業家の才能と中小企業の業績を調査したメタ分析で、色々な変数を調べると「計画」と「人脈」が高い効果サイズでした。
起業家の才能は企業の業績にどこまで影響を与えるのか
この研究(1)は起業家の才能がベンチャー企業のパフォーマンスにどんな影響を与えるのかを調査したメタ分析です。起業家の才能といっても定義があやふやですが、この論文では以下のように定義されています。
起業家の才能とは、不確実な世界で意思決定を行い、市場機会を活用するために必要なデータを発見し、選択し、処理し、解釈し、利用する能力。
上記と結びつく能力として、以下の5つが挙げられています。
才能の変数
- 経験とスキル:ビジネスや起業の経験、財務、リーダーシップの経験など
- 教育:学位など
- 計画:事業計画や運用計画、ビジネスプランなど
- チーム:取締役会や設立チームの規模など
- ネットワーク:ビジネスネットワークや教育の多様性など
いわゆる「頭の良い才能」というよりも、経験や教育、チームの経験、人脈などを検証しています。ベンチャーの業績を測定する指標は以下の5つです。
業績の測定
- 成長:資産成長や販売の成長、従業員の成長など
- 規模:従業員数や子会社規模など
- 売上高:総売上高や従業員1人あたりの売上高
- 利益:当期純利益やROSなど
- その他の財務:キャッシュフローやROAなど
- 定性的パフォーマンス:継続意思や財務管理など
これらの変数を検証していくために、1990年から2010年までの研究が対象となりました。今回は中小企業の研究なので、100-500人の企業が対象です。最終的に選択基準を満たしたのは183件の研究で、1002件の中小企業のデータが含まれていました。
結果は以下のような感じ。
結果
- 計画がパフォーマンスに対して最も高い効果サイズを示した
- 計画は成長や規模、売上に高い効果サイズを示した
- チームは規模や売上に中程度の効果サイズを示した
- ネットワークは財務や定性的パフォーマンスに強い効果サイズを示した
結果は起業家の才能は中小企業の業績と強く結びついていると示されました。特に最も高い効果サイズを示したのは計画でした。スキルや経験よりも計画が業績に大きな影響を与えるとはびっくり。中小企業の場合は計画に関連した才能と大きく関連しているので、経験やスキルがある人も計画を念入りに作り込むほうが良いかもしれません。
またネットワークはその他の財務や定性的パフォーマンスと高い相関が確認されています。これはIPOに関わるまでに、創業者だけではなく色々な人との関係が必要になる可能性があるということです。
ネットワークに関しては、著者が以下のように述べています。
ネットワークとベンチャーのパフォーマンスに関するこれらの知見は政策立案者が創設者のためのネットワークを簡素化し、奨励する必要があることを示唆している。例えば、大学や政府機関において、経験豊富な創業者がメンターとして働き、新規や潜在的な創業者に定期的にアドバイスを提供するメンターシッププログラムを増加し、制度化することによって、創業者のネットワークが強化され、様々な側面でより良いベンチャーパフォーマンスにつながる可能性がある。
つまり、起業家が人脈を作りやすいような環境づくりが大切ということですな。今回の結果で最も強い効果サイズがあったのは計画ですが、計画とネットワークの間には統計的な有意差がありません。
また計画は企業の成長や売上に対して強い効果サイズがありますが、利益や財務と関連性が示されていません。このことからわかるように、起業家の才能で業績に強く結びつくのは「計画」と「ネットワーク」の2つということですね。
それではぜひ参考に。