一般的にネガティブな口コミはブランドに悪影響を及ぼすと考えられています。サフォーク大学の研究によると、ブランドと強いつながりを感じている消費者はネガティブな口コミを見ると、むしろ購入意欲を向上させると発表されました。
ネガティブな口コミがブランドに与える影響
この研究(1)はネガティブな口コミがブランドにどんな影響を与えるのか調査したものです。この研究を見る前に、ブランドの研究で使われるSBCについて解説します。
メモ
SBC(Self-brand Connection)とは、消費者がブランドに対して感じるつながりのことを言います。消費者がブランド製品を購入するのは自分のアイデンティティを構築し、提示したいという欲求に動機付けられます。このアイデンティティの構築によって、ブランドと自分を重ね合わせてブランドとの絆を強くしているわけです。ちなみにブランドが消費者に与える影響は3つに分類されています。(2)
- Enabling:消費者を力づけ、自信や安心を与える
- Enticing:消費者を満足させ、暖かさや共感を与える
- Enriching:自己を妥当化し、他者とのつながりやステータスをもたらす
上記のようにブランドが自分のアイデンティティと関係しているため、「ネガティブな口コミを見ると自分を攻撃されているように錯覚する」可能性があるわけですね。今回の研究では、消費者がブランドに対して感じているつながりの度合いによって、ネガティブな口コミの影響が緩和されることを期待しています。
実験では139人の男女を対象として10の衣料品ブランドのランク付けに回答してもらいました。それから全員のランク付けを計算して、全体で5位のランク付けされたブランドが選び、参加者は以下の4つに分けられています。
グループ分け
- ネガティブな口コミ&SBC高
- ネガティブな口コミ&SBC低
- コントロール&SBC高
- コントロール&SBC低
参加者は全員ブランドのプロモーションメッセージを含むWEBサイトを見てもらいました。プロモーションメッセージはポジティブなメッセージが表示されます。
そして、ネガティブな口コミ群だけネガティブな口コミを見てもらい、アンケートに回答してもらいました。アンケートの内容は以下のような感じ。
診断内容
- 行動意図:ブランドの購入を検討するか
- SBC:ブランドにつながりを感じているか
結果は以下のような感じ。
結果
- ネガティブな口コミは購入意欲にわずかにマイナスな影響が見られた
- 高いつながりを感じた人にネガティブな口コミを見せると購入意欲が向上した
結果はネガティブな口コミがブランドに対して購入意欲を高めるという直感に反する効果があるとわかりました。ただし、ブランドに対して自分とつながりを感じるほどブランド力があるものに対してのみです。
ほとんど知らないブランドのネガティブな口コミを見た場合は有意に購入意欲が低下しました。ちなみに衣料品以外にも、スマホやホテルでも実験していて、どちらもブランドとのつながりが低い人にとってネガティブな口コミはマイナスの効果があると示されています。
著者は今回の結果について以下のように述べています。
従来の予想に反して、3つの研究は高い自己ブランドのつながりを持つ消費者をNOWOM(ネガティブな口コミ)に暴露することで、ブランドに対する消費者の行動意欲が高まる効果が観察された。今回の調査結果は高いSBC参加者がメッセージのソースを軽蔑し、反論し、自分のポジティブな態度を再確認することによってNOWOMに防御的に反応することを示す。
面白いことに低評価の口コミがあっても、そのブランドが好きな人の購入意欲を向上させてしまうということですね。メカニズムも明確で、防御的な情報処理が挙げられています。自分とブランドを重ね合わせているので、ネガティブな口コミを見ると反発して、より強い行動意欲が生まれるわけです。
これは実践的にも中々参考になりますね。企業の中にはネガティブな口コミを削除するところもあります。そんな中、ネガティブな口コミが部分的にプラスの効果を持つ可能性が示されているので、口コミ削除にリソースを割くならSBCを生み出すブランド構築へ投資する方が合理的かもしれません。
悪い口コミはSBCが低い人にはマイナスですが、高ければむしろプラスに働くのでブランドと消費者のつながりを強める施策を考える方が無難です。
それではぜひ参考に。