資金調達の違いがイノベーションに与える影響を調査した研究では、ベンチャーキャピタルに投資を受けたベンチャー企業はエンジェル投資単体と比較してイノベーションを促進すると発表されました。
資金調達の違いがイノベーションにどんな影響を与えるのか
この研究(1)は「エンジェル投資家」と「ベンチャーキャピタル(VC)」の資金調達の違いがイノベーションや価値創造にどんな影響を与えるかを調査したものです。
メモ
エンジェル投資家とは、ベンチャー企業に資金を提供する個人のことです。投資の見返りとして株式や社債を受け取ります。
一方のベンチャーキャピタルは大きな成長が見込めるベンチャー企業に投資をする会社のことです。投資家が出資したお金を法人として投資をしています。
2013年の調査ではエンジェル投資家の91%、ベンチャーキャピタルの35%がシード・アーリーステージに投資していたとか。ベンチャーキャピタルがイノベーションを促進し、商業化の可能性を高めるという仮説は過去の研究でも示されています。大まかな理由は3つ。
VCがイノベーションを促進する仮説
- 品質シグナルと情報の仲介:初期段階のベンチャーにとって重要な業界情報と連絡先を持っている。
- ガバナンス:VCが開発の初期段階で創業者との相互作用を増やすことで、経験的サポートを提供しガバナンスの取り組みを強化する
- 金融仲介機関:タイムリーに撤退する規律あるアプローチはイノベーションの激化を促進し、VCが支援するベンチャーの商業化期間を短縮する可能性がある
一方のエンジェル投資家がベンチャー企業のイノベーションに影響を与えるという証拠は存在していません。とはいえ、過去の研究(2)ではエンジェル投資を確保できたベンチャーの方が拒否されたベンチャーよりも生存の可能性が高いという結果が出ています。
今回の研究では、86のエンジェル投資家グループと539の投資家から収集されました。
グループ分け
- VC:213企業
- VCとエンジェル投資家:58企業
- エンジェル投資家:79企業
上記の350のベンチャー企業が今回の対象となっています。イノベーションの測定は特許の出願数で測定しました。
結果は以下のような感じ。
結果
- VC投資を受けたベンチャーは平均14.2%少ない特許件数だった
- エンジェル投資を受けたベンチャーは平均5.3%高い特許件数を達成した
- 特許の被引用度ではVC投資のベンチャーで著しく高い被引用度だった
- VC投資を受けたベンチャーはエンジェルのみよりも短期間で商品化をした
- エンジェル投資のみのベンチャーはVCを含むベンチャーよりも成功するのに時間がかかった
- エンジェル投資のみのベンチャーはIPOの達成に時間がかかった
結果はVCに投資を受けたベンチャーはエンジェルと比較して、イノベーションの品質を促進するとわかりました。これは特許件数と特許の被引用度から示されています。
また成功するイグジットを通じてイノベーションの品質を見ると、ベンチャーキャピタルの影響が非常に強いとわかりました。また商品化のスピードやIPOの達成についても、VCの方がエンジェルより良い結果を出しています。
総じていうと、ベンチャーキャピタルは企業のイノベーションの品質を高めて、利益を早く実現することを促進するわけです。中々参考になりますね。
ただし、著者はイノベーション品質の向上について以下のように述べています。
ベンチャーキャピタルの影響下で生み出されるイノベーションの質が高いという解釈には、いくつかの説明が可能である。例えば、イノベーションの質は改善されていないが、被引用度はベンチャーキャピタルによるソーシャルネットワークの効果を捉えているかもしれない。
これはベンチャーキャピタル投資はメディアでの報道が多いため、ベンチャーの認知度向上につながった可能性があるわけです。この辺りはまだ正確にわかっていないので、今後の研究に期待したいところ。
それではぜひ参考に。