ブランディングの科学まとめ②

 

ブランディングの科学まとめ」の続きです。「ブランディングの科学」におけるマーケティングの考え方をまとめています。

 

ブランディングにおけるマーケティングの考え方

ブランドが成長するためには、メンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティを拡大して、浸透率を伸ばさなければなりません。ブランドの市場浸透率を拡大することを同時に行わず、ターゲットを絞る戦略をとっても成功の可能性は低いです。

 

ターゲットは市場全体にする

ロイヤル顧客層はブランドの平均的な顧客よりも大きな価値があります。しかし、ブランドの成長という観点からみると、それほど重要ではありません。よく「ブランドを成長させるために、ロイヤル顧客にもっと製品を買ってもらいたいのですが、どうすれば良いか」と聞かれます。しかし、答えは「それほど大きく買わせられない」です。

理由は2つあります。

 

理由

  1. ロイヤル顧客はそもそも少ない:上位2割の顧客の年間購買回数が5回から6回に増えても(20%増)、人数が少ないのでわずか数%の売上増にしかならない
  2. 定説とは逆にロイヤル顧客の購買を伸ばすのは困難:ブランドのロイヤル顧客はカテゴリ内でもロイヤル顧客であることが多いため、これ以上カテゴリ内での購買を増やすとは考えづらい

 

ブランドは一般的にロイヤル顧客を重視しますが、ブランドの成長はロイヤル顧客によってもたらされるわけではありません。「ロイヤル顧客に注力することで、離反率も少しでも軽減することができるのではないか?」と期待するのは悪くないです。しかし、顧客の離反はマーケターにコントロールできない要因が6割という研究結果が出ています。(1

また「ロイヤル顧客がブランドの支持者となってブランドを推奨し、ブランドが成長するかもしれない」と期待するのも非効率です。現実的には口コミの多くがライト顧客によるものとわかっています。理由は単純で、人数が多いからです。インドネシアの百貨店の事例では、3回/月以上買い物をするロイヤル顧客は11%を占めていましたが、そのうち口コミをしていたのはわずか15%でした。それよりも、来店頻度の低い顧客が5倍以上の口コミをしていました。ちなみに高級百貨店やオンライン小売店でも同じ現象が確認されています。

そもそも小さい顧客セグメントの口コミの影響力が大きいはずがありません。ロイヤル顧客が影響力の強い口コミを発信することを期待して、関係構築するのは大きな費用を必要とする上にブランド成長の道から外れています。

 

購買頻度から見るブランドの成長

イギリスのコーラ

 

市場シェアが大きいブランドほど、購買客が多く、購買頻度も高いことがダブルジョパティの法則からわかっています。この法則は負の二項分布が生じているからです。つまり、ブランドが成長する時の変化は購買頻度が0回の顧客層が縮小で、逆にブランドが衰退するときは購買頻度が0回の顧客層が拡大しています。ブランドが成長するときはロイヤル顧客よりもライト顧客を多く取り込みながら成長するわけですね。したがって、成功したマーケティング活動は多くのライト顧客を獲得しています。ブランドの浸透率が高くなり、購買客も増加し、ロイヤル顧客も増えます。

 

負の二項分布は占いの水晶玉

この負の二項分布を理解すると、ブランドの将来の可能性を占うことができます。つまり、ブランドの市場シェアを伸ばせた場合、ブランドの将来の購買頻度分布を予測できるわけです。自社ブランドの現在のシェアが1.5%で、目標が3%の場合、何人のライト顧客とミドル顧客、ロイヤル顧客を獲得すればよいか予測できます。

 

新規顧客の獲得

繰り返しになりますが、ブランドの顧客基盤は競合ブランドの顧客基盤と類似していることがわかっています。理由は自社ブランドの顧客が他社ブランドも購入しているからです。いわゆる離反顧客も競合ブランドを購入していますし、反復買いする顧客も競合ブランドを購入しています。

つまり、自社ブランドと他社ブランドで購買が重複しているのです。これを購買重複の法則と言いますが、顧客が一定時間の枠の中で他社ブランドをどのくらい購入するか予測することができます。この法則は各ブランドがブランドの浸透率にしたがって、顧客を共有していることを教えてくれます。

 

  • 市場で多くの人が買うブランドは、あなたの顧客の多くも買っている可能性がある
  • 市場でごくわずかな人しか買わないブランドは、あなたの顧客もごくわずかしか買う可能性はない

 

顧客共有の割合はブランドの市場シェアと相関があります。購買重複の法則は競合力の重複、すなわちブランドが競合ブランドにおよぼす影響力の大きさは基本的にブランドの市場シェアに左右されるということを示しています。また競合しているのはポジショニングや品質ではなく、メンタルとフィジカルであることも示しています。

ブランドが成長するためには新しい顧客を獲得しなければなりません。そして、その顧客は競合ブランドから獲得すべきです。その獲得する顧客の比率は市場シェアの比率にしたがって、すべての競合ブランドから顧客を奪わなければなりません。そのためには、ブランドの特徴や機能的な差を成長するための布石とするべきです。

またパーティション分析を行って、ブランドが市場全体を相手にして戦っているか、適切な系列品を提供できないため主要なサブカテゴリから締め出されていないかを確認しましょう。

 

リーチを拡大する

マーケティングをするためにはそれなりのリーチが必要です。なぜなら、ブランドの成長はどれだけ高い浸透率を獲得できるか(ダブルジョパディの法則)、またどれだけ多くのライトカテゴリバイヤーを獲得できるか(自然独占の法則)に依存しているからです。リーチできないカテゴリバイヤーを獲得するのは難しいです。

メディア戦略の目的のひとつは、購買客がブランドの広告を見てから購買行動を起こすまでの時間を短縮することです。そのためには、カテゴリのすべての購買客に可能な限り、定期的にリーチしなければなりません。しかし、メディアの選択が複雑化しているため、メディア戦略の足並みがそろわなければ購買客にリーチするのは難しいです。

 

リーチとは

リーチとは、マーケティング活動が一定期間中に到達できる範囲のことです。例えば、「40%1+のリーチ」とは、ある特定地域のある特定時間枠内のある特定母集団(例:18-48歳)の40%の広告露出が1回以上であるという意味です。しかし、多くのマーケターはメディアを利用してどの程度リーチが得られたかについて正確に把握していません。理由は複数のメディアを使い、それぞれに測定システムがあるからです。

ただリーチは非常に重要です。ブランドのマーケティングはリーチしたカテゴリバイヤーだけに影響を与えられます。リーチを失えば、同じ売上を達成するために必要な広告反応を獲得することはできません。例えば、ある広告が60%のリーチと5%の成約率を持っているとします。母集団が1000人だとすると、「1000×0.6×0.05=30」

30人が注文する計算になります。

  • リーチが40%に落ちれば、同じ30人の注文(400×7.5%)を達成するためには7.5%の成約率(1.5倍の反応)が必要
  • リーチが30%に落ちれば、同じ30人の注文(300×10%)を達成するためには10%の成約率(2倍の反応)が必要

リーチが低ければ、売上を維持することも成長することも難しいです。メディアの投資を増やせば、リーチを多く獲得できます。

 

リーチを伸ばすマーケティング戦略を立案できない場合

1.市場が大きいのに予算が少ない

予算の大小に関わらず、与えられた予算でできるだけ多くの顧客にリーチしたいはずです。しかし、小規模ブランドにとっての本当の問題はリーチを伸ばせない点ではなく、フィジカルアベイラビリティが制限されている可能性がある点です。これはブランド広告の多くにブランドを簡単に買わない購買客にリーチできる可能性が存在することを意味します。

メディアや広告に修正を加えても、投資した広告から最大の効果を引き出すための解決策だとは限りません。むしろ、フィジカルアベイラビリティの構築に目を向けるべきです。

 

2.広告を3回以上露出する必要はあるのか

2009年に発表されたメタ分析(2)によると、露出の間隔が長い広告は間隔が短い広告よりも高いと発表されています。また一定期間内では最初の広告露出が最大の売上効果をもつとわかっています。リーチを考慮したメディアプランを立案せず、マーケティング施策を2,3,4回と実施して少人数のカテゴリバイヤーだけにしかリーチできないのはメディア予算の非効率な使い方です。

2009年に発表された研究(3)では、できるだけ多くの購買客にリーチするよう立案されたメディアプランがより広いリーチを獲得する理由を説明しています。広告露出のパターンを観察すると、中には非常にリーチしやすい人がいます。こういった人は頻繁にテレビを視聴し、オンラインを利用しています。したがって、マーケティング活動を展開しても、簡単にリーチすることが可能です。新規顧客にリーチすることを立案しなければ、価値のないリーチを積み重ねてしまいます。2回目以降の広告露出は初回よりもずっと低いからです。

 

3.ブランドの広告メッセージが複雑になっている

複雑な内容の広告はリスクが高いです。わざわざ理解しづらい広告を2回、3回と露出する必要はありません。効果的な広告はカテゴリバイヤーの脳に持続的な影響を与えます。したがって、同じ広告を短期間に何度も露出させることは、新規顧客にリーチすることよりも効率が悪いです。単発の広告露出を狙うメディアプランは広告のクリエイティブにも影響を与えます。常に1回目で効果を発揮する広告をデザインしなければなりません。

 

4.競合ブランドの勢いに負けたくない

競合ブランドに負けじと短期で大量投入すると、短期的にリーチが伸びて、ヘビーメディアユーザーには何度も影響を与えられますが、ライトメディアユーザーに影響を与える方法としては高価で非効率的な方法です。

大量投入する方法は季節性の高い商品でもない限り、ブランドの存在感は広告露出以降、売上が希薄になる可能性があります。競合ブランドを真似するのではなく、リーチを継続的に伸ばすためのメディアプランを立案しましょう。競合ブランドの大量投入に少しリーチを奪われるかもしれませんが、競合ブランドが広告をやめたときにインパクトのあるメディアプランを実行すると長期的にはリーチを獲得できます。

これらのように、メディア予算を効果的に使いたければ、メディアプランの立案ができないことを言い訳にしてはなりません。すべての市場においてリーチを達成することが重要です。

 

ライトバイヤーとノンバイヤーの重要性

繰り返しになりますが、ライトバイヤーとノンバイヤーがブランドの成長において重要です。彼らにリーチする必要がありますが、他社のブランド広告を見ていることに注意しましょう。通常はカテゴリバイヤーの大部分に到達するのがメディアの役割と考えられており、ブランドの成長に必要な購買客にリーチすることができます。

しかし、次の3つの戦術はメディア投資の高価を弱体化させてしまいます。

 

メディア戦術

  1. 既存ユーザーへの露出をさらに高めるメディア戦術:この戦術におけるメディアの特徴は低リーチ・高エンゲージメントであることです。この方法に反応するのは元々ヘビーバイヤーな人だけです。
  2. ブランド認識するのが難しいメディア戦術:広告が複雑な場合、認識できるのはヘビーバイヤーであることが多いです。
  3. ムダが繰り返ししまうメディア戦術:短期間で広範囲に重複が生じる広告は避けるべきです。

 

広告はライトバイヤーとノンバイヤーをターゲットにするべきです。ブランドを成長させたいのであれば、最も重要なオーディエンスを逃してはなりません。

 

メディアプラットフォームの選び方

メディアプランを立案するときはカテゴリバイヤーを第一に考えて立案するべきです。多くのマーケターは通常、直感的に判断しています。メディアを上手に立案するために、カテゴリバイヤーがどのようなメディアを、いつ、どのくらいの頻度で使用しているかを知ることが重要です。面白いのはメディア使用動向はプラットフォームの内外で、ダブルジョバディの法則にしたがっている点です。これはカテゴリバイヤーのメディア使用頻度と使用期間がプラットフォームのオーディエンス構成の幅広さと直接的な相関関係にあることを意味しています。

簡単に言えば、多くの視聴者がいるメディアはより頻繁でより長期間にわたって使用されているということです。2014年にロシアで調査されたデータによれば、パソコンを使ったネットサーフィンやテレビ視聴が最も一般的な二大メディアです。また最も使用率の高いメディアでもあり、90%の人がほぼ毎日アクセスしています。一方で、雑誌や映画はダブルジョバディのダブルパンチで、利用者数も使用率も低いです。自分が選んだメディアプラットフォームのダブルジョパディを確認するのは簡単です。プラットフォームの浸透率、使用頻度、ユーザー数をシェアの順に並べてみるだけです。散歩図を描けば、関連性を可視化できます。

 

 ユーザー(%) 積極ユーザー(%)
 WeChat 96 88
 Qzone 93 75
 Youke 87 60
 Sina Weibo 86 70
 Tencent Weibo 80 56
 Renren 62 41
 Douban 59 39
 PenYou 58 45
 Kaixin 001 50 41
 51com 43 40
 Diandian 34 32
 Jipang 32 30

 

上記の表からは2つのことがわかります。1つは一度に多くのオーディエンスを引きつけるメディアを選ぶことが重要であるという点。2つ目はメディアを訪れたカテゴリバイヤーに確実にリーチしなければならない点です。

 

リーチが重複しないようメディアをミックスする

ひとつのメディアに過度の投資を行うことがあります。しかし、短期間のリーチが増えても、プラットフォームへのアクセスにムダな投資を行っているだけになりがちです。このような場合は2つの選択肢が考えられます。次回の投資機会のために資金を確保するか、別のメディアに投資するかのどちらかです。別メディアを増やすときは、リーチが重複しないように投資することが重要です。

人は複数のメディアを使っています。ここで役に立つのが「購買重複の法則」です。元々この法則はテレビ視聴行動の調査中に発見されました。(4)この法則を利用して分析すれば、メディアを正確に選択することが可能になります。

 

購買重複の法則

  1. オーディエンスの重複が非常に大きい:組み合わせることでリーチの重複が予想以上に大きくなるメディアを避ける
  2. オーディエンスの重複が非常に小さい:組み合わせることでリーチの重複が大きく減少する可能性のあるメディアを使う

 

2012年に行われた中国メディアにおけるオーディエンスの重複が以下のようになっています。

 

 メディア  リーチ(%) テレビ広告 SNSの動画広告 店内係員の推薦 知人の推薦
 テレビ広告 62 - 40 20 17
 SNSの動画広告 31 80 - 7 5
 スーパーのチラシ/クーポン 27 77 63 22 17
 おまけ 22 83 18 44 36
 屋外イベント 17 84 81 16 12
 店内係員の推薦 16 77 13 - 46
 SMS/携帯端末広告 16 90 82 13 9
 店内広告 15 78 9 58 46
 知人の推薦 13 85 12 58 -
 ラジオ広告 10 89 84 15 9

※中国メディアにおけるオーディエンスの重複(2012)右4つは同時に以下のメディアでリーチされた人の割合

 

中国ではテレビ広告やSNSの動画広告など、多くのオーディエンス重複があるとわかります。つまり、これらを組み合わせて使うと、オーディエンスが大きく重複する可能性があるわけです。一方で店員の推薦や屋外イベント、店内広告などは重複が非常に少ないです。したがって、これらのプラットフォームを組み合わせると、オーディエンス重複が起きる可能性は低いと考えられます。

マルチプラットフォームのキャンペーンを立案するときは費用とタイミングを要因として考慮しなければいけないので、分析結果は一度しか使えません。しかし、調査する価値のある情報です。メディアミックスの原則もメモしておきます。

 

メモ

  1. テレビ広告はきわめて重要なメディア:テレビ広告を候補から簡単に除外してはならない
  2. 最初にリーチするなら、最も大きいメディアを選ぶ:メディアを増やすのは、メディアを増やして一週間後に重複するリーチよりも重複しないリーチを多く達成できそうなときに限る
  3. 性質の異なるメディアを組み合わせる:リーチの重複を少なくできる可能性がある。2つのデジタルメディア、2つの店内広告を出すよりもテレビ広告・SNS・店頭広告を組み合わせる

 

 

メンタルアベイラビリティの構築はメディア戦略に支えられています。戦略の基礎はリーチで構成されています。適切なメディアを選択していきましょう。

 

口コミの科学

口コミはマーケティングの中でも重要視されている要素です。リアルで人に聞く代わりに、WEB上で買うときに口コミを参考にしているだろうと感覚的に理解しているからです。しかし、科学的な口コミの影響を調べたものはあまり見かけません。よくある口コミの定説では、「肯定的な口コミよりも否定的な口コミが一般的」と言われています。しかし、携帯電話の口コミを10ヶ国で調査した結果(5)、肯定的な口コミが否定的な口コミよりも2-5倍多いとわかっています。他にもレストランや映画館、車などのカテゴリも同じように肯定的な口コミの方が3倍以上多かったです。

肯定的な口コミの数が多い理由は単純に肯定的な口コミをする人の数が多いからです。否定的な口コミをする人が少ない理由は、否定的な理由を書かなくてはならないからと考えられています。また否定的な口コミは肯定的な口コミよりも強力な力を持ち、潜在顧客に大きな影響を与えると考えられていますが、これも誤りです。先ほどの研究によると、肯定的な口コミと否定的な口コミは同等の効果があると報告されています。他にも肯定的な口コミの方がブランドの売上に大きな影響を与えます。影響力は否定的な口コミと同程度ですが、多くの人にリーチします。ブランドの業績が悪くない限り、否定的な口コミに神経質になる必要はありません。

 

人はなぜ口コミをするのか?

口コミとは、そもそも単なる会話でしかありません。ブランド活動が口コミの主な誘因であると思われがちですが、それはごく一部でしかありません。人が口コミをする理由は相手にとって有益な情報だと考えていたため、会話の中で話題になるわけです。

会話する価値のある話題は非常に貴重です。そのような話題は、誰がどのブランドを買いたいかが明確にわからなくても共有されるからです。共有する話題が無ければ、口コミの発信者は口コミを誘発する新たな動機、例えば誰かが購買のアドバイスを求めているなどの情報が現れるのを待つでしょう。話題が興味深ければ、直ちに口コミが発生するでしょう。

マーケターは、どのようなブランドストーリーが会話の中で共有される力を持つかを考えなければなりません。また絶えず口コミを発生させるためには、人は同じ相手に同じ話題を何度も伝えたいとは思わないため、常に新鮮な話題を提供し続けなければなりません。

 

ブランド体験の重要性

ブランド体験がなければ、共有したい話題は作れません。韓国とレバノンで行われた口コミに関する調査(6)によると、肯定的な口コミは現ブランドユーザーが発信している傾向が確認できました。さらに現ブランドユーザーには次のような特徴があります。

 

肯定的な口コミをする人

  1. ブランドについて自信のある意見を持っている
  2. ブランドの広告を見たことがある
  3. 特別なブランド体験やブランドに関する特別な話題を持っている

 

一方で、ブランドから離反したユーザーは、否定的な口コミを発信する傾向がありました。彼らには以下のような特徴が見られています。

 

否定的な口コミをする人

  1. 共有したい否定的なブランド体験がある
  2. 使用を放棄したことを正当化するための否定的な気持ちがある

 

またブランド未購買層は口コミを発信することはほぼありません。ブランドの離反と否定的な口コミ発信に相関がある点は、NPSの限界を表しています。なぜなら、NPSは現ブランドユーザーの評価のみが反映され、離反した人の発信は反映されていないからです。つまり、否定的な口コミが過小評価されています。

 

口コミの質は市場シェアと相関している

市場シェアの大きいブランドは市場シェアの小さいブランドよりも肯定的な口コミが多く発信される傾向にあります。(7)自社ブランドが同じカテゴリの他ブランドと比較して、どの程度の口コミを得られるかは市場シェアや利用度で決定します。したがって、得られたデータを盲目的に信じることなく、ブランドの口コミレベルがブランドの規模にしては高いか、低いか、予想通りかを確認できます。

 

肯定的な口コミの影響力が最大になる時

口コミによるアドバイス効果は口コミ受信者の買いたい気持ちに左右されます。(8)口コミを見る前と後でブランドを買う可能性がどう変わるかの調査で、肯定的な口コミが車を買いたい気持ちを平均+0.9%押し上げていました。

他にも以下のようなことが判明しています。

 

メモ

  1. 肯定的な口コミは購買意欲の低い人(購買可能性が2,3点の人)にリーチしたときに最大のインパクトを発揮する(平均の2倍以上)
  2. リーチとインパクトが食い違っている。肯定的な口コミがリーチした人の63%がすでに7点以上の買いたい気持ちを持っている。買いたい気持ちが7,8点の場合、インパクトは約0.4に半減する
  3. 買う気持ちが非常に低い被験者(0,1点)の中にはブランドや肯定的な口コミを拒否する人が含まれている
  4. 肯定的な口コミの受信者は購買意欲の高い人側に偏っていた。この事実は口コミの効果を数値化するときに考慮する必要がある

 

これらの結果は、口コミが購買意欲の低い人にリーチした時、購買意欲の高い人から得られる口コミのROI(投資利益率)はより低くなることが示されています。別の調査では中国車ブランドの口コミにおいても、口コミの影響力は買いたい気持ちが低い人(ゼロを除く)で大きいです。

 

否定的な口コミの影響力について

今までは肯定的な口コミを見てきました。一方で否定的な口コミはブランドを買いたい気持ちが高い人に大きな影響を与えます。中国のレストランを調査した結果、否定的な口コミの影響力の平均値は1.3ポイント低かったです。またこの影響力は購買性向の低い人には実質的にゼロであり、10回に9回以上の高い購買性向を持つ人の間で最大でした。

とはいえ、否定的な口コミが購買性向の高い人にリーチすることは稀です。オーディエンスと影響力の間にミスマッチが生じ、口コミの影響力が抑制されているからだと考えられています。そのため、影響力のわりに適切な対象者にリーチすることに失敗しているのです。

 

口コミは発信者のブランド体験を強化する

肯定的な口コミの影響力には限界があります。しかし、口コミは口コミ発信者がブランドを思い出させるには効果的です。アドバイスをするとき受ける側は頭を空っぽで良いですが、する側は記憶を掘り起こしながら経験を思い出そうとします。つまり、口コミを発信しながら、自分のブランド体験を思い出しているわけです。

特に競合他社の多いカテゴリではブランドの広告活動が低下しているときや市場での存在感が薄いとき、人はこれまで購入していたブランドを忘れがちです。口コミの発信は心の奥の感情を思い出す行為で、自己発生的な広告露出のようなものです。口コミが発信者自身に与える影響力は無視してはいけません。

 

ECの科学

オンライン環境ではどのブランドのフィジカルアベイラビリティも大差はないです。大規模ブランドだろうと小規模ブランドだろうと、店舗規模は同等です。よって、小規模ブランドという点が不利になるという現象が起きないように見えるかもしれません。しかし、一般的な日用雑貨カテゴリの購買をオンラインとオフラインで比較すると、ダブルジョパディの法則がオンラインでも成立していることがわかります。

 

ブランド 年間浸透率 平均購買頻度 年間浸透率 平均購買頻度
 コルゲート 71 3.1 63 2.4
 アクアフレッシュ 23 2.1 27 2.3
 オーラルB 20 2.1 15 1.8
 センソダイン 15 2.4 12 2.1
 マクリーンズ 10 1.7 6 2.0
 アーム&ハンマー 9 1.9 4 1.8
 テスコステップ 1 1.6 3 1.8

※イギリスにおける歯磨き粉のオンライン購入に観察されるダブルジョパディ(2014年)

 

競合するブランドの主な違いは購買客の人数で、ロイヤルティにはほとんど差はなく、ブランドの浸透率に一致しています。また表ではフィジカルアベイラビリティだけではなく、メンタルアベイラビリティも大規模ブランドに有利に働くと示しています。

さらにオンライン店舗の月間訪問数は明らかにダブルジョパディのパターンが見て取れます。

 

 サイト  積極的リーチ(%) 一人あたりの訪問回数 滞在時間
 アマゾン  39  8.4  54:43
 ウォルマート  22.4  4.5  23:42
 ターゲット  13.3  3.1  15:32
 オーバーストック  5.0  2.1  09:31
 ステイプルズ  4.3  2.9  12:28
 アリエクスプレス  4.2  2.3  08:29
 コストコ  3.9  2.4  10:50
 サムズクラブ  3.8  2.4  10:40

 

アマゾンは顧客数も来店頻度も比較的多く、滞在時間も長いです。一方で訪問客の少ないサイトの来店頻度は低く、滞在時間も短いです。ブランドロイヤルティをオフライン・オンラインでそれぞれ調査した研究(9)によると、どのカテゴリでもオフラインよりもオンラインの方がブランドロイヤルティは高いとわかりました。

 

カテゴリ オフライン(%) オンライン(%) オフライン(%) オンライン(%)
ドッグフード 21 33 20 34
インスタントコーヒー 31 48 31 49
おむつ 28 42 33 41
衣料品 38 50 37 50
歯磨き粉 35 43 37 41

 

また2010年に行われた別の調査(10)でも、ロイヤルティはオフラインよりもオンラインで平均2.4%も高かったです。さらに最近の調査では、ロイヤルティの格差が大きくなりつつあることが示されています。

オンラインでブランドロイヤルティが高くなる理由は以下の仮説が考えられています。

 

仮説

  1. 買い物履歴やお気に入りを保存できる
  2. レコメンド機能がある
  3. オンラインではより多くのライトカテゴリバイヤーを増やせる

 

オンラインで購入する機会が増えると、購入頻度の高くなかったカテゴリともタイミングが重なるため、オンラインで買うカテゴリの数も増えます。相当数のライトカテゴリバイヤーがオンラインでブランドを買うことになり、比較的低頻度であっても、結果としてロイヤルティを高めることになります。

またECにおいては小規模ブランドにとっての安定的なメリットが見つかっていません。オンラインへのロイヤルティが高くなるほど、小規模ブランドが購買客のレパートリーに加わることは非常に難しいです。フィジカルアベイラビリティ構築の環境が公平であっても、メンタルアベイラビリティに差があれば大規模ブランドほどオンラインではメリットが大きいことを意味しています。

 

オンラインが小売に与える影響

インドで150人の新規購入者を対象に実施した携帯電話の購入前購買行動調査では、購買客がカテゴリについて考え始めてから製品を購入するまでの時間に群間差がないことがわかりました。

新しいカテゴリで製品を購入するまでの時間は両群ともに全体の70%が約1ヶ月でした。アウトレットでも同様で、約95%が製品をネット検索し、約70%が店舗を訪れていました。この結果は購入期間中の来店頻度の少ないスマホ新規顧客にリーチするためには、製品が実際の店舗で目立つことが重要であるということです。

 

高級ブランドの科学

高級ブランドは富裕層だけに売れるわけではありません。富裕層の一人あたりの高級ブランド購買額は普通の人と比べて大きいかもしれませんが、買い物の中心は数千倍も存在する中級階層の人です。これは高級ブランドは必ずしもすべての購買層に売れているわけではなく、大衆市場において競合ブランドと市場を争っていることを意味します。

一般的な定説では「高級ブランドの成功の鍵は特別感や希少価値があること」と主張されています。しかし、希少価値があれば売れるという考え方は非常に危険です。

 

高級ブランドの成功の鍵は希少であることか?

3000人のアメリカ人を対象に34種類の高級ブランドリストを使った調査が行われました。対象者は各ブランドの「認知度:知っているか」「所有度:直近2年間で買ったか」「欲求度:副賞で5つのブランドから1つを選べるとしたどのブランドを選ぶか」を調査し、評価しました。

結果は所有度が上がれば欲求度が下がることが判明しました。つまり、ブランドは所有者が多くなるほど人はブランドを所有したいと思わなくなるということです。しかし、この研究では副賞をもらえることを前提とした質問にしていたため、低価格な商品よりも高級品を選びやすいという欠陥がありました。

その後、同じカテゴリ・同じ価格帯・同じ品質を持つブランドで再度調査し直すと、

 

結果

  1. 認知度と所有度の間に非常に強い相関が見られた(約0.9)
  2. どのカテゴリでも認知度が所有度よりもかなり高かった
  3. 認知度と欲求度も強い相関が見られた(約0.8-0.9)

 

高級ブランドの多くが認知度は低かったですが、人は知らないブランドを欲しいとは思わないわけです。やや外れ値のような存在ですと、プラダとロレックスが挙げられます。この2つは外れ値というよりも、ダブルジョパディの強い影響を受けていると考えられます。認知度を押し上げている購買客層に欲求度も押し上げられています。ちなみに2つのブランドが持つ所有度と欲求度の相関性はそこまで強くありません。(約0.55)

これらの結果から、「高級ブランドの成功は希少であること」という定説を裏付けることはできませんでした。どの高級ブランドもメンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティの構築を競い合っています。また顧客が多くても、浸透率が高くても、需要が低下することはないです。なぜなら、ブランドのネームバリューや高級感が落ちても、メンタルアベイラビリティが高ければ十分に補えるからです。

 

買った瞬間にブランドの価値が失われるか?

現実のデータでは高級ブランドを所有することはブランドへの欲求度をより高めます。高級ブランドのデータを見ると、所有者群の方が欲求度は高かったです。

 

 ブランド所有者が最も買いたいブランド(%) 認知未購買者が最も買いたいブランド(%)
 プラダ 43 29
 バーバリー 23 18
 ボッテガ・ヴェネタ 21 8
 ヒューゴ・ボス 18 11
 ジバンシー 16 10
MJ 14 9
 ケンゾー 9 7
 バレンシアガ 9 14
 モスキーノ 8 6
 フェンディ 8 5

 

欲求度に関しては「大会で優勝したとして、副賞にそれぞれのカテゴリから3つのブランドを選べるとしたらどのブランドを選びますか?」と質問しています。結果は、ブランドの所有度が上がっても、欲求度は下がらないことを示しています。むしろ、ブランドを所有する以前にも増して欲求度が上がったと考えてよいでしょう。

 

買い求めやすさは高級ブランドの価値を下げるか?

高級感や限定感をもつブランドに対する認識・フィジカルアベイラビリティに対する認識を直接測定した調査をした結果、高級で限定感のあるブランドほど「入手し難い」のスコアは低いことがわかりました。

 

 ブランド  年間購買率 認知度 高級感 限定感 入手し難い
 ロシアンウォッカ 65 91 32 22 8
 メキシカンテキーラ 52 80 28 24 13
 スコッチ1 46 77 22 19 13
 スコッチ2 37 56 19 17 21
 ヨーロッパウォッカ 26 50 15 14 19
 アメリカンバーボン 21 38 18 15 17

 

つまり、入手しづらさで高級ブランドを作ろうとしても、ブランドに高級感や限定感が出てくるわけではないということです。限定感の原因を生み出したマーケティング戦術を別角度から見ると、ブランドに高級感や限定感を出すためにフィジカルアベイラビリティを制限する必要はないとわかります。

 

小規模ブランドはニッチブランドか?

高級ブランドのデータを見ても、購買重複の法則は確認できます。

 

購買率 ヒューゴボス バーバリー プラダ ジバンシー ケンゾー MJ フェンディ モスキーノ
 ヒューゴボス 31 - 49 46 42 44 31 27 27
 バーバリー 30 52 - 48 38 31 34 32 28
 プラダ 24 59 58 - 43 42 32 40 29
 ジバンシー 21 62 54 50 - 48 33 37 38
 ケンゾー 21 66 44 49 49 - 25 27 37
 MJ 17 57 60 47 42 31 - 34 29
 フェンディ 15 55 61 63 51 37 37 - 35
 モスキーノ 13 65 63 55 61 38 38 41 -

 

ブランドはカテゴリのすべてのブランドと顧客基盤を共有し、大規模ブランドほど多く、小規模ブランドほど少ないです。さらに深堀りして小規模ブランドを見ると、小規模ブランド同士でも購買重複が多いことが確認できました。この要因は小規模ブランドの顧客がヘビーカテゴリバイヤーだからだと考えられます。どちらもヘビーカテゴリバイヤーが購入しているため、最も小さい2つのブランドの間で顧客の共有率が高いのでしょう。

また高級腕時計ブランドのデータでは、自然独占の法則が観察されます。

 

 ブランド 所有率 平均所有個数
 オメガ 67 2.2
 ロレックス 52 2.1
 ロンジン 45 2.4
 ラドー 31 2.5
 パテック・フィリップ 19 2.6
 ゼニス 18 2.8
 ブライトリング 13 2.8
 ヴァシュロン・コンスタンタン 12 2.7
 ピアジェ 11 2.8
 ジラール・ペルゴ 5 2.9

 

上記の表では小規模な高級腕時計ブランドほど、所有者のブランドレパートリーが広いです。これは小規模ブランドの顧客がカテゴリヘビーバイヤーだからです。当然のことですが、同じカテゴリ内の高級ブランドはどれも共通の購買客層に売れています。

 

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